第1話 ミレーネ姫の誕生日 #1

プレシーズン 第1話 ミレーネ姫の誕生日 #1




***プロローグより遡ること6年前




■ー〈緑の国 情景〉


〈青い空を背景に森があり、その中に城壁が見え隠れする城。城壁のある森を抜け、石造りの橋から、城下町へと続く道。遥か遠くに山並み。〉




■ー緑の国の城下町 民政みんせい大臣の家 ポリーの部屋 朝 王妃殺害12時間前


〈悪い寝相で寝ているポリー。兄ジュリアスが入ってきて覗き込む。〉


ジュリアス「ポリー、起きて」


ポリー「ううん。〈嫌々と毛布をかぶる〉」


ジュリアス「〈毛布をはぎながら〉お早う。今日が何の日か、まさか忘れる訳ないよな。ミレーネ姫のお祝いにお城に行くのを、ずっと楽しみにしていただろう?」


ポリー「……お城?そうだっ!〈慌てて飛び起き〉支度しなくっちゃ」


〈ジュリアスが笑いながら窓のカーテンを開ける。さあっと部屋に陽が射し、窓の向こうに森の中の城が見える。〉




■ー緑の国のエトランディ王の城 ミレーネ姫の部屋 朝 王妃殺害12時間前


〈ミレーネ姫、ベッドで寝ている。その寝顔。〉


女官タティアナ「姫様、姫様」


〈姫、ぱちっと目を開ける。〉


女官タティアナ「十四歳のお誕生日おめでとうございます」


〈鏡の前で着替えさせられている姫。着替えを手伝う女官達。プレゼントの山を抱えて入ってくる召使達。口々に姫に「おめでとうございます」とお祝いを述べる。どことなく慌しい様子。〉


女官タティアナ「今日のドレスは王様からの贈り物でございますよ」


〈そこへまた、プレゼントの山がやってくる。〉


従者ボリス「〈プレゼントを抱えながら〉姫様、おめでとうございます」




■ー城下町 民政大臣の家 食卓


〈新聞を読んでいる父・民政大臣。末娘アンをあやす母・ナタリー。そこへ階段を下りて入ってくるジュリアスとポリー。〉


二人「お早うございます。アン、お早う」


アン「〈たどたどしく〉おあよー」


民政大臣「早かったな。祝賀会は夜だぞ」


ナタリー 「もう少しゆっくり寝ていても良かったのに」


ポリー「〈食べ始めながら〉だって、ジュリアスが無理矢理起こすから」


ジュリアス「ポリーはいつもお城に上がる時、支度に時間がかかって、またギリギリになったら、困るだろ?」


ナタリー「そうね。ミレーネ姫に憧れて、めいっぱい、おめかしするものね」


ジュリアス「見かけだけ真似しても、中身が姫と大違いのお転婆じゃ――。〈拳を上げるポリーの手をパッと受け止めて〉ほら、ほらー!」


民政大臣「こら、こら、お前達」


〈二人、一瞬おとなしくなる。〉


ポリー「ねえ、父様は今日も先に行って仕事なの?私達と一緒に行けないの?」


民政大臣「ああ、一足先に行っているよ。皆はゆっくり来なさい。〈側にいる女中ステラに向かって〉留守の間、アンのことは頼むよ」


女中ステラ「旦那様、かしこまりました」


ポリー「母様、ロザリーおば様に久しぶりに会えて嬉しい?」


ジュリアス「ロザリーおば様じゃなくて、お妃様だろ?」


ナタリー「ポリー、お城では特に気を付けて頂戴」


ポリー「はーい」


アン「〈笑いながら一緒に手を上げて〉あーい」




■ー城の廊下


〈歩いて行く姫。女官タティアナが付き添う。城の関係者たちは、会うごとに全て立ち止まり、「姫様、十四歳のお誕生日おめでとうございます」と言う。その度に軽く会釈しながら、笑顔を振りまき歩いてゆく姫。〉




■ー城 孔雀の間 王妃殺害11時間前


〈重々しく扉が開き、豪華絢爛な室内が見え、奥の王座に、王と妃が座っている。タティアナは、扉を入ったところで立ち止まり、控えて待つ。〉


王様「おお、姫」


ミレーネ「お父様、お母様」


王様「誕生日おめでとう」


ミレーネ「有難うございます」


〈ひざまずき挨拶する。〉


お妃様「ミレーネ姫、おめでとう」


〈手をのばし、姫を招く妃。姫は妃の傍に行き、抱き寄せられる。〉


ミレーネ「お母様、有難うございます」


お妃様「〈王様に顔を向けて〉このドレス、ミレーネにとてもよく似合っていますわ」


〈満足そうに頷く王。妃は自分が身につけていた首飾りを首からはずす。首飾りには精巧で緻密な細工で模様が施された石のヘッドが付いている。妃は姫の首に、その首飾りをかける。〉


お妃様「これは私の生家代々、持ち主を災いから守ってくれると伝えられている首飾り。私も母から受け継いだものです。これからは肌身離さぬように」


ミレーネ「タティアナからも聞きました。王子ミリアムが生まれた時も、体の弱いお母様がご無事だったのは、この首飾りのお陰だったと。そんな大切なものを頂いてしまっては――」


お妃様「いいのですよ。十四歳になった姫は、これから色々な経験をして、大人になっていくのです。いずれは、この緑の国を離れ、外の世界に身を置くことになるでしょう。そうなれば、いつ何時、危険にさらされるかも知れません。その時のためにも……ね、ミレーネ姫」


〈二人、再び抱き合う。〉


ミレーネ「お父様、お母様、私はミリアムが成人するまで、お母様と共に、お父様を支え、この緑の国と、この国のたみの幸せを守ってゆくつもりです」





#2へ続く



※作者注: 近況ノートの7月6日(一枚目の方です)に緑の国のお城のイメージ画があります。宜しかったら、ご覧下さい。


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