side.G

その扉を開けたら、

 じっと私を見つめる黒い眼。殺すつもりで来たはずのに、何だかとっても愛らしかった。

 同時に彼が可愛がっていたことを思い出し、私のはらわたは素早く煮えた。


「冷蔵庫には何があったっけ?」


 誰ともなしに呟いた。いつかの日々と同じように。起きているのは私だけなのに。好きでいるのは私だけなのに。

 ここは元カレの部屋。一時期、一緒に過ごした部屋。一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に笑って……。


「マヨネーズはあったよね」


 ガラッと空いた冷蔵庫から、慣れた手つきで取り出した。赤い蓋のプラ容器。淡いクリーム色の中身は、私が居た頃よりずっと減っていた。……そりゃ、そうか。今も彼は二人で暮らしているのだし。

 床に散らばる雑多な物を踏まないように、そぉーっと歩く。薄く埃が積もってフローリング。……黒い靴下が白く汚れた。もうこの靴下は捨ててしまおう。


 私は再び水槽を開ける。青い彼は寝ぼけ眼で微睡んでいた。私のことなぞ見えないように。


「………」


 四角いそこにクリーム色をぶちまける。目玉の奥を引かれるような、後ろめたさを感じていても。

 淡い黄色が彼の住みかを侵しゆく。小さな飛沫を跳ばしながら。


 油の海に溺れる彼。白い肌は醜かった。

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