君の告白が、嘘か本当か分からない件ついて。

白深やよい

君の告白が、嘘か本当か分からない件について。

 四月一日。

 一年で特に注意深く警戒しないといけない日。

 一年に一回、この日だけ"嘘"をついても良い日。



 それが──エイプリルフール。



 友達と弄りあい、仲を深める人──

 冗談を流し、「嘘だよ〜」なんていう馬鹿みたいなことをする人──。



 そんなことをできるのが、今日──四月一日だ。



 そして今──クラスのマドンナと言われている美少女が俺の目の前にいた──。



「えっと、わざわざ来てもらってごめんね?」



 そう謝る素振りを見せている子は華味咲はなみさきというクラス……いや、学校一モテてるといっても過言ではない人だ。

 誰にも優しく、モテているからと言って、誰かを見下したり、パシリにしないため、男女問わず信頼が厚い。

 そんな男子の夢みたいな女子が今──俺の目の前に立っていた──。



「だ、大丈夫だけど……どうしたの?」



 俺も流石に鈍感ではない。

 この女子から呼び出しをもらうということは──すなわち告白だ。

 あの学校のマドンナ、華味さんの告白と言ったら、誰でも期待してしまうだろう。



 ──でも、俺は忘れていない。

 今日がエイプリルフールだということを。



「えっとね、伝えたいことがあって……」



「わたしと、お付き合いしてくれませんか?」



 その言葉に、一度目を見開いてしまう。

 華味さんが、こんなドッキリなんてするとは思っていなかったから、余計に頭が混乱してしまう。

 ただそんな混乱を処理仕切る前に、華味さんが一歩近づいてくる。



「その、キスもできますよ?」



 まさかの言葉に、頭がショート。

 華味さんのキス……を考えてしまうだけで、理性が壊れそうになるが、必死に抑える。

 一回、冷静に考えてみよう。

 このエイプリルフールに告白ということは、つまり──ドッキリの可能性が高い。



 ただ……



(華味さんがそんなつまらないドッキリをするだろうか?)



 それが一番謎なのだ。

 一応、自分の先生からの信頼は、結構ある方なので、バラすこともできる。

 そんなリスクを背負って、あの華味さんがドッキリなんて仕掛けてくるだろうか?

 しかも、ドッキリにキスしてもいい。なんて言えるのが普通のだろうか。

 仮に、ここで「じゃあキスしてみろよ」なんて言って、キスしてもらったら、絶対罪悪感が胸に響くだろう。

 そこまでしてキスしたいとは思わない。



「……まぁ、キスはしなくてもいいよ」

「……本当ですか? 我慢はしてないですよね」

「……してないから」



 クラスの中で見る華味さんと、印象が違うのは間違いないだろう。

 クラスでの華味さんは、基本的に、お嬢様のような立ち振舞をしている。

 誰にでも平等にしている華味さんを尊敬している女子が結構いる──という話は結構聞くため、穏やかな性格なことは確かだ。

 でも、今はどうだろうか。

 何というか、"小悪魔"とでも言えばいいのだろうか。

 小悪魔のような囁きで、キスを誘ってくる華味さんに、自分でもよくわからない感情が渦巻いた。



「えっと、その、返事を聞かせてほしいんですけどっ」



 その言葉で、もう一度華味さんのことを考える。

 俺も、華味さんに好意がないわけではない……が、ドッキリで付き合いたくはない。

 ここは、一か八か、本人に聞いてみるのも一つの手などではないのだろうか。

 俺は、意を決して、聞いてみる。



「……華味さんって、今日が何の日か知ってる?」

「んー、エイプリルフールでしょ?」

「その、華味さんの気持ちが本当なのかが分からないんだ。

 こんな嘘をついても良い日に、告白されても、ただ疑うだけだよ。

 できれば、正直に話してほしい」



 できるだけ真剣さを伝えたはずだ。

 俺は、華味さんの回答で、答えを出そうと思う──。



「わたしが、冗談で告白したって思ってること?

 それは心外だなぁ……。

 それが、嘘か本当かは、あなた次第ってね」



 "嘘""本当"という回答ではなく、俺の想像にお任せします、という回答。

 まさかの回答に驚きを隠せない。



(一体、どうするべきなのだろうか……)



 断るのは簡単だが、後で後悔してしまったら意味がない。

 俺が後で後悔しない選択──何かいい案はないのだろうか。



「……まぁ、こんな日に告白されたらそうなっちゃうよね。

 わたしは、そんな風に考えてくれてることが嬉しい。

 だから、どんな選択をしようと受け入れるよ。

 でも……わたしを一度──信用してくれない、かな?」



 上目遣いで俺を説得させようとしてくる華味さんを後目に、俺の答えは決まった。

 俺が出す、後悔のない選択は──。



「じゃあ、一回デートしてみない?」



 華味さんがドッキリで告白してきたのならば、デートは嫌がるだろう。

 もし、嫌がらなかったら、デートをしてから決めればいい。



「ふふっ、よくそんなことが思いつくよね」

「そりゃ、どうも」

「わたしが、冗談で告白してきたなら、断るって思ったでしょ?

 残念、わたし、一緒にデート行くよ」

「……本当か?」

「うんっ、楽しみにしとく」



 まずます華味さんの考えていることが分からなくなってきた。

 ドッキリで告白──つまり、嘘告白の可能性は、多少薄れたが、急遽ドタキャンなんてあるかもしれないため、まだ警戒を解くことはできないが、



(これ、俺にメリットしか無くね?)



 仮にドッキリだとしても、あの学校のマドンナとデートできるのだ。

 正直、華味さんとのデートは期待してしまう。



「じゃあ、連絡先、交換しようか」



 その言葉で、デートから連絡先の方へ意識が傾いてしまう。

 実際、華味さんは、誰とでも連絡先を交換する人ではなかったはずだ。

 前に一度、「連絡先交換しない?」とクラスのチャラいやつに誘われてたが、「無理」の一点張りだった。

 そんな華味さんと連絡先を交換すると聞いて、動揺しないわけがない。



「今、なんでわたしみたいな、可愛い子と連絡先を交換できるんだろう?

 って思ったでしょ」



 自分で可愛いというのに気になったが、考えていることは確かに合っている。

 もしかして、



「心が読めるんじゃないか?

 って考えたでしょ」



 ……本当に人の心が読めるんじゃないか、と疑ってしまうレベルで当ててくる。

 流石に少し恐怖心が湧いてきてしまう。



「そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか……。

 普通に考えて、好きな人と、連絡先を交換したいって思うのは、当たり前じゃないですか?」

「まぁ、確かに」

「じ、じゃあ、連絡先、交換してくださいっ」



 少し華味さんと会話してみてわかったが、おそらく、騙してやろうみたいな感情が見つからない。

 華味さんが、とびっきり嘘をつくのが上手い可能性も否定できないが、そこまで考えても仕方ない。

 ここは一つ、華味さんを信用してみよう。



「……ほらよ」



 女子と連絡先を交換するという、あまりしたことがない行為に、何故か緊張してしまい、ぶっきらぼうにスマホをみせる。

 普通に考えて、学校のマドンナと、連絡先を交換すると聞いて、緊張しない男子生徒はおそらく居ないだろう。

 俺が、今華味さんと目を合わすことができないのも、誰が何と言おうと普通だ。



「なんで、目を合わせてくれないんですか?

 もしかして、緊張してます?」



 そう言いながら、華味さんは一歩俺に近づき、指でツンツンと体を触ってくる。

 今の状況を、誰がどう見ても小悪魔に見えるだろう。

 もういっそ、サキュバスでもいいのではないのだろうか? なんて考えながら、華味さんのアイコンをのぞいていた時、ふと華味さんが話しかけてきた。



「えっと、そのデートなんですけど、明日でどうでしょうか……」



 華味さんの提案を受け、スマホで明日の予定を確認してみる。

 明日の土日は、目立った予定が入っていない。

 華味さんとデートをしても、問題ないだろう。



「うん、明日で問題ないよ」

「じゃあ、明日、最寄り駅集合にしましょうか」

「分かった」



 そんなやり取りを交わして、俺と華味さんは一旦分かれた。

 一体、明日はどんな日になるのだろうか。

 地獄が、天国かなんて、分かりっこない。

 ただ、華味さんとデートと、考えただけで、胸が踊って仕方ないんだ──。



 ◆◆◆



 華味side



 作戦は成功っ!

 あえて、エイプリルフールの日に告白することによって、それが本当の告白か、嘘の告白か分からなくする作戦を無事実行出来た。

 こういうのが、"恋の駆け引き"って言うんだよね?

 わたしの告白を受けて、困惑していたってことは、、多分成功のはず……。

 本当は、前から告白しようと思っていたけど、勇気がなくて、思いを伝えることが出来なかった。

 それじゃあ、自分が許せない。

 始めて好きになった人に、思いを伝えずに、学校生活を終了させるなんて、絶対に後悔してしまうと思う。

 だから、エイプリルフールの日に告白してみたけど……



「じゃあ、一回デートしてみない?」



 まさかの提案に、自分でも驚いてしまった。

 初恋の人とデートなんて、今まで想像したことがなかったから、嬉しさで頭がどうにかなりそうだった。



(デ、デートなんて……)



 嬉しさのあまり、顔がにやけそうになる。

 でも、そんなニヤケ顔をみせるわけにも行かない。



(み、見られてないよね?)



 普段の学校生活でも見せない表情を見せてしまったら、気持ち悪いと思わてしまうかもしれないことに気づいてしまい、必死に顔を戻す。

 お、落ち着いて、今やらないといけないことは──



「じゃあ、連絡先、交換しようか」



 連絡先を交換だと思う。

 べ、別に、好きな人の連絡先が欲しいからこんな提案をしたわけじゃない。

 デートの予定を組むために連絡先の交換をしたのだ。

 下心は、一切無い……わけないんだけど。



 そんな時、ふと気づくことが出来た。



(凄い動揺していない?)



 あからさまにさっきと態度が違いすぎる。

 おそらく、原因は連絡先の交換だと思うけど……。

 なんでそこまで動揺するんだろう?



(そういえば、わたし、前に男子に連絡先を交換をしようって、言われたことあったっけ?)



 その時の男子は、凄い下心がすごかった。

 そんな下心満載の男子と、連絡先の交換なんて、嫌に決まってるだろう。

 でも、なんで、わたしと連絡先を交換しようと思ったんだろう?



(わたしが、可愛いから?)



 自分で言うのも、癪に触るけど、結構自分でもモテる方だろ思う。

 だって、一週間に数十回は告白されるし、周りの友達からは、学校のマドンナはいいよね〜なんてよく言われる。

 自分が自覚していなかっただけで、結構わたしって、可愛いのかもしれない。

 そんなわたしが、連絡先を交換しよう……なんて言ったから、動揺してしまったのでは?

 うん、それしか思いつかない。



「今、なんでわたしみたいな、可愛い子と連絡先を交換できるんだろう?

 って思ったでしょ」



 ふふっ、もっと動揺し始めた。

 ちょっと可愛いかも。



「心が読めるんじゃないか?

 って考えたでしょ」



 少し顔が赤くなってる。

 可愛いなぁ……。

 だけど、そんな顔もどんどん青くなっていって……



「そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか……。

 普通に考えて、好きな人と、連絡先を交換したいって思うのは、当たり前じゃないですか?」



 この言葉は決して嘘なんかじゃない。

 本当は前から連絡先を交換したいとは思っていたけど、話したことない女子から急に、連絡先の交換なんか出来ないから、半ば半分諦めていたってのが実際にあった。



「まぁ、確かに」


 無事、納得してくれたようっぽい。

 これなら安心して、連絡先の交換ができる。



「じ、じゃあ、連絡先、交換してくださいっ」

「……ほらよ」



 何故か目を合わせてくれない。

 もしかして、無理矢理連絡先を交換しようとしたから、嫌われた?

 なんて、考えは必要なかった。



(めっちゃ顔赤い……)



 さっきまでは、顔が赤いと言っても、頬が少し赤いぐらいだった。

 けど、今は綺麗な赤。

 多分──いや、絶対、恥ずかしくて顔を見れないんだろう。

 思わず、一歩近づいて……



 つんつん、つんつん



 指でつんつんしてしまった。

 これは本当にわたしの悪い癖だ。

 可愛いものにつんつんしたくなってしまう癖。

 自分でもよくわからないけど、体が勝手に動いてしまう。



(まぁ、別に大丈夫でしょ)



 本当に嫌なら、絶対に嫌がって、わたしを無理矢理剥がすはず。

 でも、剥がさないってことは、多分大丈夫のはず。

 ……そう信じないとやってられない。



 そんな事を考えながら、スマホを一度見る。

 デートをするなら早めのほうがいい。

 しかも、明日は土日だ。

 デートをするのにはもってこいの日。

 悩んでいても仕方ない。とりあえず提案してみる。



「えっと、そのデートなんですけど、明日でどうでしょうか……」

「うん、明日で問題ないよ」

「じゃあ、明日、最寄り駅集合にしましょうか」

「分かった」



 始めてのデートに心を踊らせてしまう。

 明日は、一体どんな日になるんだろう。

 きっと、きっと、人生で最高の日になってくれるだろう。



 早く帰って、明日の準備しないとなぁ……。



 ◆◆◆



 時刻は既に九時半。

 集合が十時だったため、家を早く出てみたが、流石に早く来すぎた。

 仕方ない、少し待とうと思ったが──



「あ、おはようございます」



 既に華味さんがそこに居た。



「ごめん、待ったよね」

「いえいえ、今来たところですよ〜」



 なんて、カップルがするようなやり取りを交わす。

 まさか、三十分前に、華味さんが既に居るとは微塵も思っていなかったため、思わず聞いてしまう。



「な、何時にここに着いた?」

「えっと、九時にはいましたね」



 まさかの一時間前集合。

 華味さんを三十分もまたしてしまった事に、罪悪感を感じて居た時、それを感知にしたのか、華味さんが、



「気にしないでください。わたしが楽しみすぎて早く来てしまっただけなので」



 そんな、男子の脳を溶かすような言葉を言い始めてくれた、。

 正直、もうドッキリではないんじゃないか? と薄々感じてきてしまった。

、流石にドッキリで一時間前に来るということは無いだろう。

 けど、ドッキリじゃないとしたら、なんでエイプリルフールに告白なんてしてきたのだろう。

 謎は深まっていくばかり。



「そう言ってもらえると助かるよ」



 許してくれた華味さんに感謝しつつ、電車を待つ。

 お互いに学校の話や、趣味の話をしていた時、ふと思い出した。



「今日、どこに行くんだ?」



 二人の間に沈黙が生まれる。

 華味さんも俺も、何も考えていなかったらしい。



「あはは……どうしようか」



 苦笑いを浮かべる華味さん。

 華味さんは、必死にどうしようか考え始める。

 それに釣られて、俺も必死に考え始める。



 今日のデートは一体どうなるのかと思っていた時、華味さんが起点を利かせてくれた。



「じ、じゃあ、遊園地なんてどうでしょうかっ」



 ──遊園地。

 確かに、ここから電車に乗っていけば、遊園地にはたどり着けるし、悪くない提案だと思う。

 俺は、華味さんに二つ名で了承した。



「それじゃあ、行きましょう!」



 ◆◆◆



 電車に乗り始めて数十分。

 後二、三分程度で予定の駅に着くはずだ。



「ふふっ、楽しみだなぁ……」



 隣に座っている華味さんもどうやら、遊園地デートに胸を踊らせていることが見てわかる。



 ──遊園地デート。



 様々なアトラクションを通じて、仲を深めたり、お揃いのものを購入したり──特別なデートと言っても過言ではないだろう。

 今日、華味さんとどんなアトラクションに乗ろうか?



(ジェットコースターとか? それとも、お化け屋敷とか?)



 期待で色々な妄想を浮かべてしまう。

 もちろん、そんな妄想を浮かべているのは、俺だけじゃない──。



「ねぇねぇ、何のアトラクション乗りましょうかっ」



 華味さんも、俺とどんなアトラクションに乗るか目をキラキラ輝かせて考えていた。



「メリーゴーランドとかもいいですよねっ、

 えっと、後は……ジェットコースターとかっ」

「全部乗りたいよなぁ……」



 なんて会話をしているだけで、時間があっという間に過ぎ去ってしまう。



「──ご乗車、ありがとうございます……。お出口は右側です」



 駅員さんの声で、俺と華味さんは席を立ち、電車から出る。

 最近来ていなかったなぁ……と思いつつ、辺りを見渡して見ると……



「うわぁ……カップルだらけですねぇ……」



 辺り一面カップル、カップル、カップル。

 たまに家族で来たような人も見かけるが、一人できたような人は殆ど見かけない。

 流石に、この空間に、俺みたいな年齢=彼女いない歴にはきつい。



「その、頼み事があるんですが……」



 この周りの状況にあたふたしていた時、華味さんが上目遣いで寄ってくる。



「その、手、握って頂いてもいいですか?」



 完全に彼氏彼女じゃないとやらない言葉に、理性が崩壊しそうになるが、周りの視線を、どことなく感じ、理性を封じ込める。

 ──女子と手を握る行為。

 それに胸を踊らせない男子は居ないだろう。

 しかも、手を握る相手は、学校のマドンナと来た。

 流石に緊張してしまう。

 でも、断る理由が見つからない。



「いいけど……」



 手汗とか大丈夫かな? なんて考えながら、華味さんに手を差し出す。

 そして、華味さんは俺の手にゆっくり近づき──



 ぎゅっ



 ついに握ってしまった。

 華味さんの手は、俺とは比べ物にならないほど柔らかく、温かい。

 俺が、華味さんの手に感動していた時──



「おっきぃ……」



 何やら危ない発言もし始めた。

 もちろん、華味さんの危ない発言は、小声で、多くの人には聞こえていないだろう。

 だが、俺の周りの人には聞こえていたらしく、危ない視線が俺に向かってくる。



「華味さん……それは本当に危ないって……」

「なんで……って、あっ……」



 華味さんに取って、無意識で言ってしまった言葉だろうが、色々と危ないことにようやく気づいてくれたようだ。

 みるみるうちに、華味さんの顔が赤くなっていく。



「い、今のは忘れてくださいッ」



 なんてことを言ってるが、忘れられるわけない。

 華味さんには悪いが、今回のことは、胸の奥にそっとしまっておこう……。



 ◆◆◆



「ついに来ましたねっ」



 ようやく入れた遊園地。

 流石、休日ということもあって少し時間がかかったが、無事入ることが出来た。

 時刻は既に十一時半。昼食を食べ始めてもいい頃だ。



「どうする? 先に昼食にするか?」

「そうですね……先にそうしましょうか」



 俺と華味さんは、二人で手をつなぎながら、食事をできるところを探し出す。

 まだ俺は、華味さんと付き合っていないはずなのに、はたから見れば彼氏彼女──まぁ、カップルにしか見えないだろう。

 自分としては、願ったり叶ったりだろう。



「行きますよっ」

「ちょっと、待ってくれよ」



 今日一日、楽しくなりそうだ──。



 ◆◆◆



 華味さんと昼食後。

 華味さんと手を繋ぎながら、何のアトラクションに乗るか探し始めていた。



「何乗りましょうか……

 色々なアトラクションがあって、悩んじゃいますよね……」

「そうだな……とにかく見かけたやつから乗ろうか」

「んーじゃあ、あれ乗ろうよ」



 華味さんが指さしたのは、メリーゴーランド。

 しかも……



「二人乗り……」



 絶対に、カップル専用のアトラクションだろう。

 そのことに華味さんは気づいているのだろうか?



「はいはい、行きますよー」



 まぁ、華味さんからしたら、カップルって思われるほうがいいのかもしれないな……。



「──どちらの方が前に乗るでしょうか?

 彼氏の方ですか? 彼女の方ですか?」



 まさか、担当の方が、そんなことをいい始めるなんて思ってもおらず、言葉が詰まる。

 ここは、「いえ、彼女じゃないですよ」とか言うべきなのだろうが、言葉が出ない。

 その時──



「じゃあ、彼女の方が前でお願いしますー」

「わかりました〜、こちらに来てください」



 まさか華味さんがそんな事言うとは思いもしなかったが、あの告白が嘘告白でないなら、納得できる。



(本当に、俺のこと好きなのかな?)



 ここまで来てしまったら、嘘告白なんて思いづらい。

 でも、なんでエイプリルフールに告白してきたか、いまいち分からない。

 本当に謎だ……。



「その、勝手に彼女なんて言ってごめんなさい」



 嘘告白について考えながら歩いていると、華味さんがそんなことを言ってきた。

 流石に、付き合ってもないのに、彼女面はやばいと思ったんだろう。

 でも──



「いや、華味さんに彼氏って言ってもらえて嬉しいよ」

「じゃあ、告白は──」

「それは後でね」



 今日一日過ごしてみてわかった。

 華味さんはとても魅力的な女子だ。

 まだ、なんでエイプリルフールに告白してきたかはわからないけど、俺をドッキリで「付き合って」なんて言ってないことが見てわかる。

 華味さんと付き合えたらどれだけ幸せなのだろうか?

 俺は、きっと華味さんと付き合いたいんだと思う。

 だから、今日の夜、俺から告白しようと思ってるけど……。



(流石に、メリーゴーランドで告白するわけには……)



 メリーゴーランドで告白なんて、ムドーもむの字も無いから、今は告白できない。



「まぁ、わかった、期待しとく」



 そんなやり取りを交わしながら、メリーゴーランドに乗り始める。

 華味さんが前で、俺が後ろだ。



「なんかドキドキしますねっ」

「……そうだな」



 華味さんの体温を直に感じながら、数分。



「──今から動かしますよー」



 そんな声が聴こえてくると同時に、メリーゴーランドが動き出す。



「お、おぉ〜結構気持ちいですね……これ」



 自分も、幼少期にメリーゴーランドに乗った記憶しかなかったため、どれぐらいのスピードなのか、想像できなかったが、結構早い。

 風が本当に心地よい。



「落ちそうになったら、抱きついてもいいですからね?」



 こんな状況でも誘惑してくる華味さん。

 ここで抱きつくのもいいが、まだ告白していない中でそんなことはできない。



「何いってんだよ……ばか」



 照れ隠しでそんなことを言ってしまう。

 もちろん、そんな言葉を華味さんが逃さないわけなく──



「ばかはどっちでしょうね……ばーか」

「うるさい」



 そんな幸せなやり取りを交わしながら、メリーゴーランドを数分楽しんだ──。



 ◆◆◆



 時刻は七時──もう夜だ。

 つい先程、華味さんと夕食を食べたため、次に乗るものが、おそらく最後になるだろう。

 もちろん、俺が最後に乗るアトラクションは決まってる。



「華味さん、あれ乗ろうか」



 俺が提案したのは観覧車。

 俺はそこで──告白しようと思ってる。



「いいですよ、行きましょう」


 華味さんの手を取り、観覧車のチケットを取りに行く。



「それじゃあ、行こう」



 そうして俺と華味さんは観覧車に乗車した──。



「結構中、綺麗なんですね」

「そうだな。

 もしかして、観覧車は始めてか?」

「そうですね……観覧車は始めてです」



 そう言う華味さんの顔は微かに染まっている。

 華味さんも、この状況を期待してくれてるのだろう。

 ここで、何も言わないのは最低だ。



「華味さんに、伝えたいことがあるんだ」

「……はい」

「今日一日過ごしてみてわかった。

 華味さんは、凄い魅力的で、俺にはもったいないと思う。

 それでも、それでも華味さんが、いいなら、」



「俺と付き合ってください」



 言えた。

 あの学校のマドンナと言われている華味さんに。

 緊張で頭が回らない。

 でも──華味さんと目は合わせることをやめない。



 華味さんは、俺に近づいてきて──



「はいっ、喜んで」



 華味さんが抱きついてくる。

 華味さんの体は、俺とは違い、柔らかくて、温かい。

 俺もつかさず抱きしめる。



 ──ピューン、バンバンバンバン



 空に、大きい大きい花火が打たれる。

 その花火を背景に、俺と華味さんは──



 ──チュッ



「ほら、できたでしょ?」





 ────これからも華味さんには敵わなそうだ────。

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君の告白が、嘘か本当か分からない件ついて。 白深やよい @yayoi_san

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