14「切り裂き魔事件」
「鑑識によると、非常に鋭利な刃物で切断されているらしい。組織が潰れることなく、骨までスッパリだそうだ。…どう思う?」
捜査資料に目を通すディエゴにザックが尋ねているのは、一昨日の大量殺人事件についてだ。その数日前にも同様の殺人事件が複数件あり、地元では切り裂き魔事件と呼ばれている。
「【切】の指輪だろうね、間違いなく。…あー、よりによって悪人の手に渡っちゃったかー。」
資料をテーブルに放り出し、困ったように両手を頭の後ろで組むディエゴにザックはやはりか、とため息を漏らす。
「ユールの警察にIPOから応援を送ることにしよう。一刻も早く捕まえなければ被害が増える一方だ。」
「…僕も行くよ。魔法使いには魔法使いで対抗しないとね。」
両腕を今度は膝の上に乗せ、正面で手を組みながらディエゴは申し出た。
「危険だぞ?それに君の魔法は戦闘に向いていない。」
「確かにそうだけど、魔法適性があるぶん多少は戦えると思う。リョウとアイラにもお願いしてみるよ。」
「本人たちが良ければ構わないが…リョウはまだしもアイラくんは危険じゃないか?」
「大丈夫、彼女の魔法なら何があっても無事さ。それは彼女自身が良くわかっていると思うよ。」
「彼女の魔法はバリアのようなものだったか…。」
「そうそう。おそらく【切】の指輪の唯一の弱点かもね。」
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ホテルを脱出した私は、コンビニに停まっていた地元ナンバーの車を見つけた。丁度運転手は店内にいて、エンジンもかかったままだったのでこっそりと後部座席に乗り込む。
そしてそのまま無事に地元まで帰ってくることができたのだが、家まではまだ遠い。すっかり夜になってしまっていたので近くの空き家に侵入し、一晩を明かした。
翌日、道路の案内板を頼りに歩き続け、時には信号待ちで止まっているトラックの荷台に乗せてもらったり、バスに無賃乗車したりしながらなんとか家の前までたどり着いたのだが…。
(家の前に黒服が二人立ってるー!!)
まるで私を待ち構えるかのように黒スーツにサングラスをかけた男たちがいた。私の追手かもしれないが、もしかしたら家で雇うことにしたボディーガードかもしれないのでとりあえず近づいて様子を伺うことにした。透明化中であるため堂々と正面から向かう。
「…。」
「…。」
この二人は仲が悪いのだろうか。一向に何かを話す気配はない。
黒服は無視することにして、家の敷地に入り忍び足で庭まで進むと窓からリビングの様子が伺えた。
「…。」
「…。」
「…。」
そこにはお父さんとお母さんがいて、なんと昨日のエロおやじもいた。名前何だっけ?ドーナツっぽい名前だったと思うけど覚えてないや。そして三人とも沈黙である。仲悪いのか?
いずれにせよやはり私を追ってきたということで間違いはなさそうだ。これは参ったな…家に帰ることもできないのか。
「わんわん!」
その時、家で飼っている大型犬のアレクサンダーが私の匂いを嗅ぎつけ駆け寄ってきた。久しぶりの再会でとても嬉しそうだ。私も嬉しい。でも今はそれどころじゃないんだ、ごめんね。
「アレク、しーっ!」
小さな声でアレクを落ち着かせようとするが、うちのアホ犬は「おかえりご主人!遊んで遊んでー!!」と尻尾を振って鳴きやまない。首輪と繋がっているチェーンで何とか私のいる場所までは来られないが、非常にまずい状況だ。
「ソフィアなの!?」
しまったリビングからお母さんたちがやって来てしまった。それに黒服たちも駆けつけてきたようだ。
久しぶりに会った両親に声を掛けたかったが、私がいることがばれると捕まってしまう。私は静かにその場を後にした。
家から宛てもなく歩きながら私は泣いていた。どうしてこんなことになってしまったんだろう。最初から指輪のことを説明しておけばよかったのだろうか。それとも単位のために教授の研究に同行したのが間違いだったのか。
誰でもいいから教えて欲しい。この指輪は一体何なの?どうしたら私を元の生活に戻してくれるの?もうどうしたらいいかわかんないよ…。
私はただただ歩いた。裸足で歩き続けたせいで足の裏は傷だらけだ。痛みに耐えられなくなると蹲り泣き続けた。道行く人にぶつからないように街の隅っこでこっそりと息を殺しながら。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「申し訳ありません、未だに足取りは掴めておりません。」
王座に着くロイド皇帝の目の前で軍事局長フレディ・オルロフは跪き報告をする。
「…。」
老年の皇帝は不機嫌そうに頬杖をつき、彼を見下している。
「現在、偵察用のドローンを国中に巡回させております。じきに見つかるかと。」
「…。」
「指名手配の準備も整っております。」
それを聞いて皇帝の眉が少しだけ動いた。
「指名手配はするな。IPOに指輪の主を知らせるようなものだ。」
「…はっ、直ちに取りやめます。」
「指輪を何としても手に入れるのだ。そうすればわがロイドは世界を全て制圧することができるのだからな。」
皇帝は不敵に笑う。まさか自分の代に指輪が覚醒するとは思っていなかった。後は年を重ね死んでゆくものだと思っていた。
だが運命は自分を選んだのだ。初代皇帝の手記の通り、世界には魔物が溢れ遺跡には指輪が確かに存在した。
あとは全ての指輪を集め、賢者の石をこの手に…。
―――――――――――――――――――――――――――――――
歩き続けて涙も枯れると、散々泣いたお陰か少しだけ元気が出て来た。とりあえずこの指輪について調べよう。これがどういったものかがわかれば解決策も浮かぶかもしれない。
(でも、どうやって調べればいいんだろう?また遺跡とか行かなきゃだめかなー。でも私古代語読めないし…)
具体的にできることは現状ない。誰かこの指輪に詳しい人いないかなー。
私はあーでもないこーでもないと考えながら人が行き交う中を人とぶつからないように歩く。透明なので私が気を付けていないとぶつかってしまうのだ。
「…あれ?」
少し先にオーラを纏っている人を見つけた。私や料理上手に次いで3人目の指輪に触れる人間だ。
しかしその人物は私と少し違っていた。纏っているオーラの色が赤いのである。もしかしたら何か手がかりが掴めるかもしれないと思い、急いでその人の所まで走る。足の裏は痛いが、折角見つけた手がかりを見失うわけにはいかない。
そして近くまで来ると、私の目はその手に釘付けになった。
「…指輪?」
その人物は赤く光る指輪をしていたのだ。
ひとまず私はその人物の後をつけることにした。声を掛けても良かったのだが、透明な状態だと驚かせてしまうかもしれないし、かといって透明化を解除すると全裸であるためひとまず着いて行くしかない。着かず離れず、私はその人物に着いて行くのだった。
Magic Hand 柳居紘和 @Raffrat
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