12「水色の指輪」
翌日、リッドに連れられて研究室にやってきたアイラは昨日よりもいくらか顔色も良くなっているようだった。
午前中、リッドはアイラの病室にて看護士と一緒に彼女の身に降りかかった出来事を聞いてきたらしい。彼女の話によるとイサディアでの列車内集団昏睡事件の真相はトンネル内のコウモリだという。
「ディエゴ、コウモリの魔物は昔もいたのか?」
「あぁ、いたね。その魔物は超音波に魔力を乗せて攻撃をするのが特徴だ。魔法適性があれば暫く耐えられるだろうけど、普通の人間ならすぐに意識を失ってしまうだろうね。重度のマナ酔いみたいなものさ。」
リッドの質問にディエゴが頷き、答える。ディエゴは心配そうな表情をしているアイラを一瞥すると彼女に微笑みかけながら話を続けた。
「大丈夫。生きてさえいれば数日で目を覚ますよ。」
「そうですか…良かったぁ。」
アイラもそれを聞いて少し安心した様子だ。
「それじゃあ、早速だけど指輪をしてみてくれるかな。」
リリスが促しリッドが指輪を自分の指から抜き取りアイラに差し出すと、彼女は少し顔を赤らめながら指輪を受け取った。特にマナ酔いの症状は見られない。
「やっぱり適性があるね。じゃあ、嵌めてみてくれる?」
「あ、はい。」
アイラは右手で指輪を持ち左手を見つめていたが、指輪を左手に持ち替えて右手の人差し指に嵌めた。嵌める指を考えていたのだろうか。
「…あっ。」
指輪は彼女の指のサイズまで縮小し、嵌め込まれた石は青色に輝きだした。すると、突然俺の指輪が共鳴するように光を放つ。
気付いたら指輪の色が緑色から水色に変化していて、俺は新しい魔法の使い方を理解していた。
「何ですかこれ?…魔法?」
「青色か…ねぇアイラちゃん、どんな魔法が使えるようになったんだい?」
「えっと、何かバリアみたいなものを自分の周りに作り出せます。」
自身の魔法を説明すると同時にアイラの周りにドーム型の膜が広がった。そのバリアの色は透明だが、そこにあるというのはわかる。そう、丁度ペットボトルみたいな感じだ。
「このバリアは…なんというか、物理的にも魔法的にもガードしてくれる感じです。」
「へぇー、凄い!どこまでの衝撃に耐えられるんだろう。」
リリスは目を輝かせてバリアを外側からぺたぺたと触っている。ディエゴはうんうんと頷きながら魔法の詳細と青色の指輪の名前を口にした。
「オーソドックスな結界魔法だね。その指輪は【瓶】の指輪で間違いない。」
「…あの、何か俺の方も新しい魔法覚えたっぽいんだけど。」
アイラの指輪と魔法について明らかになったところで、自分の指輪について皆に報告をすることにした。
「おぉ、そうだ。【手】の指輪は青色に共鳴して色が変わるんだった。どんな魔法だい?」
「これは見てもらった方が早いかな。」
早速新しく覚えた魔法を使ってみることにする。魔法を発動すると、俺の身体はその場でふわりと浮き上がった。そして研究室の中をあちこち漂って元いた場所へ着地する。
「空中浮遊…?」
リリスの質問に対し、どう答えようか迷ったがとりあえず肯定しておくことにした。
「そう考えてもらっていいですよ。今までは物質の操作しかできなかったけど、自分の身体も同じ要領で動かせるようになったみたいな感じです。」
本気を出せば銃弾より早く動くことも出来そうだが、障害物にぶつかると死んでしまう気もするので注意が必要だろう。
「あ、あとで色々研究させてもらっても?」
「…いいですよ。」
目をきらきらさせるリリスにたじろぎながらも了承する。
「何はともあれ、3つの指輪の主がそろったわけだ。改めて宜しく頼むよ、リョウ、アイラ。」
「あぁ、わかった。」
「は、はい。…?」
アイラは状況が掴めていない様子だ。彼女はまだ魔法や魔物、賢者について何も知らないのだろうから無理もない。
「リリスちゃん、僕はアイラに詳しい説明をしたいんだけどいいかな?」
「うん、了解。じゃあこっちはリョウくんの新しい魔法の研究を始めることにするよ。」
「じゃあ俺は司令官に報告をしてきますね。」
ディエゴとアイラはラウンジに、リッドは本部に向かう。
「さーて、じゃあまず念のためにパラシュートを着けてもらおうかな。」
「ははは…。」
そして俺はまた長い研究に付き合わされることになるのだった。
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コルティ市街、とあるホテルの一室にて一人の女が佇んでいる。片方の手で小さな水晶玉を目の前に掲げ、その中に何かを見出そうとしているようだ。
女の名前はジャナ、メラ族の呪術師である。彼女は先日の族長の命により遺跡を調査した結果、ソフィア以外にも侵入者の痕跡を発見していた。
同時にソフィアが集落の外に逃げおおせたことも感知し併せて報告をしたところ、族長からその2名の捜索及び暗殺を引き続き命じられ、ここまでやってきていた。
「今帰った。」
入口のドアがガチャリと開き、一人の屈強な男が入室する。男は照明もつけずに夕方の薄暗い部屋で佇むジャナを見て、ため息をつきながらもドアの近くの照明スイッチを押した。
「どうだ、近いのか?」
男の帰還に返事も返さずに水晶を見つめていたジャナはそのまま目を離さずに彼の質問に答える。
「まだまだね。女の方もまた遠ざかったみたい。」
「そうか。」
「…ねぇ、ディロ。」
「ん?」
ジャナはゆっくりとした動作で男と視線を合わせ、名前を呼んだ。
「あなたは厄災を信じているの?」
心を見透かすかのようなジャナの雰囲気を感じ取り、ディロは諦めたように本音を口にすることにした。
「半信半疑…いや、一信九疑くらいの割合だな。」
「ふふふ…そうよね、言い伝えを盲信しているのは年寄りたちとヘッグくらいだわ。」
「だが、族長の命令ならば一応従わないとならないだろ?」
特にディロに責任感や使命感といった気持ちなどないらしいことを感じると、ジャナは少し微笑んで呟く。
「…まずは導かれるままに進んでみましょうか。」
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翌日、コルティ市街にて。
「アニキ、俺たちの息がかかってるホテルやバーには立ち寄っていないようです。」
マフィアの構成員パウロはアントニオにそう報告した。
「そうか。電車は一昨日から止まってる、まだこの街にいるとは思うが…。」
ヒース、フーバー、ミーシェルにアジト本部に麻薬を届けさせ、ヨーウィーに洋館の番をさせ、アントニオとパウロとイツィリはこの街でソフィアを捜索していた。
正真正銘の透明人間である。マフィアにとっては悪用しがいのある人材なのだ。
「アニキー!手がかり見つけました!!」
そこに手を振りながら近づいてくるのはソフィアをまんまと街に送り届けてしまい、アントニオから大目玉を食らったイツィリである。
彼は一組の男女を連れていた。服装はこの地方の民族衣装であることからも現地の人間であることが伺えた。
「そちらは?」
アントニオは値踏みするように観察をする。ソフィアのときのように素性を隠すつもりは一切ない様子だ。パウロも今は手袋を外している。
「私はメラ族の占い師、彼は用心棒みたいなものよ。」
「****…、******。(あのタトゥー…、黒山羊だな。)」
女の方が聞き取りやすい共用語で自己紹介をした。男の方は言葉が通じなさそうだが、隙のない精悍な青年だった。
用心棒と紹介された青年、ディロはパウロの左手にある模様に気づくとジャナに告げた。
「あなた達が捜しているのはどちらの人物かしら?」
「ロイド人の女だ。年齢は20前後、銀髪のロング、貧乳、そして…妙な力を使う。」
「****。***?(女の方ね。どうする?)」
「***、**。********。(黒山羊の本部はユールだ。こいつらの情報網は使えるだろう。)」
「その女性ならもうこの街にはいないわ。」
「…どうしてそれがわかる?」
「貴方がさっき言った”妙な力”よ。」
アントニオは本当にこの占い師がソフィアの行方を知っているのか、それとも適当なことを言って相談料を巻き上げる魂胆なのか測りかねていた。
「その妙な力っていうのは…もしかして、急に気分が悪くなって動けなくなるというものじゃないかしら?」
「…そうだ。」
「その女性はおそらくロイドに帰ったわ。でも、追わずに本拠地に戻るべきね。」
「何故だ?」
「貴方が求めているのはその女性が持つ不思議な力でしょう?彼女以外の力は今ユールに集まりつつあるわ。そっちの方が動きやすいでしょ?黒山羊さん。」
暫し逡巡した後、アントニオは頷いた。
「まぁ、俺としてはあの女に拘りはないからな。縄張りに美味しい話が転がってるならそっちの方が良い。***、****。(パウロ、車回してこい。)」
「*****!(わかりやした!)」
「で、占い料はいくらだ?」
「お代は結構よ。その代わり、私たちも連れて行ってくださらない?」
後腐れなく金を渡して去ろうとするアントニオを制しジャナがそう尋ねる。素性は怪しいものの、確かに利用価値のありそうな占い師ではあったためアントニオは二つ返事でその申し出を了承した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
敷島亮 【手】の指輪 [属性:緑/状態:水色]
Lv1:物体操作⇒無生物に対する物理的な干渉
Lv2:身体操作⇒自身に対する物理的な干渉
Lv3:???
アイラ・ヴァルマ 【瓶】の指輪 [属性:青/状態:青]
Lv1:自己保全⇒自身周囲に防護結界を構築
Lv2:???
Lv3:???
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