第5話 それはいつかの夢
「なぁリオ」
また、いつかの夢を見る。
「お前は何でそんなに強くなろうとするんだ?」
僕が小さくて、塔にもまだ挑戦していなかった頃、父の真似をして1日中素振りばかりしていた頃の記憶。
「なんでって?」
不思議な顔をしていたのだろうか?父は少し困った顔をして言った。
「ほら、こんな変な事してるのは私たちだけだろう?よそに見られた時色々言われる事もあったじゃないか」
「へんなことじゃないもん!」
「ははは...そうだな」
不機嫌そうな顔をしていたのが分かったのだろう。父は苦笑して頭を撫でた。
「いや、辛くないのかと思ってな」
「おとうさんとこれするのたのしい!」
本当に辛くなどなかった。父の隣で素振りをしていると、心が繋がっている事を感じられたからだ。この時間が楽しくて、でも先に疲れて動けなくなってしまい、それを合図に素振りが終わるのが寂しくて、もっと一緒に素振りをするために父が塔へ行っている間も休み休み1人で素振りをするのが日課になっていた。
「やはり私達の子だな」
そう言って、父が嬉しそうに笑っていた事を、今でも覚えている。
「そうだ、最近出来る様になったこれを見せてあげよう」
そう言うと、父は集中を始める。実戦ではとてもではないが使えない程の時間をかけた後、剣を振り下ろした。
「ハァッ!」
裂帛の気合とともに振り下ろされた剣は、微かに紫の光を放っていた様に見えた。
「すげぇー!なんかでた!」
父は疲れ果てた様子で地面にへたり込んだ。
「まだまだ頑張らないといけないけど、可能性を見たよ。人の、可能性を」
「すげぇー!ぼくもだしたい!」
「もちろんリオにだってできるさ。もっともっと頑張ればね」
それは、幸せな記憶。世界が父と僕、2人きりだった時の、今でも輝いている紫色の思い出。
朝、日が昇る少し前に起床する。
部屋の隅に置いてある大きい箱に向かい、箱の中に大量に詰め込まれている紫玉をいくつか桶に移し、桶と布と剣を持って家を出る。
家の前に出ると、素振りを始める。
精神と肉体を完全に一致させ、一振りに魂を乗せる。
その剣と体は、薄らと、しかし確実に、紫の光を放っていた。
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