第4話 それはいつもの現実

「今日はどういう組み合わせなんだい?」


そこは、第6塔の貴族街の中心地に建てられた娯楽施設だった。

その施設の中心はアリーナになっており、光に照らされている。地面にはまばらに剣が突き立ち、所々血痕が残っており、幾度もそこで何かが行われた事を示していた。

それを見下ろすように観客席が囲んでいる。観客席は逆に薄暗くなっており、風に関係する神聖物も置いてあるのか、心地よい空気が流れていた。


「何やら左方の平民街から連れて来たとか...どうやら始まる様ですよ」


何処からともなく声が響く。


「ご来場の皆様、本日は第6塔闘技場物語の檻ストーリーケージにご来場いただきまして、誠にありがとうございます。皆様は既にご存知の事と思いますが、この闘技場の説明をさせていただく事をご了承下さい」


その声は妙に粘っこい陰気な印象を抱かせるものだった。


「闘技場は各塔に1つ建設されており、それぞれの闘技場にコンセプトがあることはご存知でしょうが、ここ、第6塔闘技場は物語の檻ストーリーケージの名の通り、登場人物に物語性のある演者を採用しています」

「その演者達の怒り、憎しみ、恨み、嫉み、悲しみ、苦しみ、そういった感情の発露をこそ楽しむのがこの闘技場のコンセプトとなっております」

「それでは、本日の登場人物の設定を公開いたします!」

「この4名は左方の平民街から連れて来ました。小さな頃から共に過ごしてきた仲だそうです」

「まず1人目、最も背が高く体格の良い男性はカールといい、次に紹介する女性の婚約者となっております」

「次に2人目、優しい風貌をしている女性はアルマといい、カールの婚約者です」

「3人目の神経質そうな女性はデリアといい、4人目の男性の婚約者です」

「最後の小柄な男性はクルトといい、現在2との間に新しい命が育まれているようです。まだ腹部が大きくなっていないのでこれから判明する所だったのでしょうか」


観客席では賭事が始まっていた。醜悪な笑顔をアリーナに向けて、期待や侮蔑の眼差しを送っている。


「これより舞台は整いました。この中で生き残れるのはたった1人。どの様な舞台が繰り広げられるのか」

「それでは、開演です!」


そして始まる醜く滑稽な舞台、救われるものは何もなく、ただひたすらに舞台に負の感情が撒き散らされた。


そして最後、大方の予想を裏切り4人目の男性が生き残り、全てが終わった瞬間に観客席から飛んできた剣で首を飛ばされ、舞台の幕が下りた。


「今回は予想外の事があって面白かったですねぇ。大分損をしましたけど」

「私は大穴を当てたよ。これでまた神聖物を買い込めるな」




これは、この世界で行われている現実である。闇はまだ深く、見通す事が出来ない。この現実はこれからも続いていくのだろう。


---いつか試練を越え、神のラトゥールの頂にたどり着き、世界の摂理を書き換えるその時まで

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