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歩「…。」
花奏「歩さん、行こうや!」
歩「…うっさ。」
花奏「ええやんか。少しくらい賑やかな方がええねんて。」
歩「あんたは度を越してる。」
花奏「褒めてる?」
歩「は?うざ。」
隣には私より何十cmか背の低い歩さんが
不満そうな顔で歩いていた。
ちらと彼女の方を向いても
睨むように視線を寄越すか
見向きもしないのどちらか。
でも嫌々ながらに反応してくれるだけ
麗香さんともまた違った感触を持った。
休日、午後、昼下がり。
私たちは今、宝探しの為に
点のある地点から近い駅に降りて
外を歩いているところだった。
午後に待ち合わせ。
定期券内で迎える範囲はやはり
お財布に優しい。
お互い私服で会うのは初めてだから
緊張して止まなかったが、
会ってみれば意外と平穏な心拍数。
歩さんはと言うと白パーカーに
黒ズボンといった無彩色の組み合わせ。
彼女らしいとふと過る。
数日前の夜、唐突に宝探しに
参加するとツイートした歩さん。
どんな心境の変化があったのかは知らないが
ひとまずやる気になってくれたのは
嬉しいことだと喜ぶことにした。
チュートリアルの日から前回まで
一切参加していなかった彼女。
でも、会えずじまいで
疎遠になっていくのは嫌だったので、
時々教室へ遊びにいった。
すると、絶対に嫌そうな顔をして
無視したり罵倒したりする。
それでも歩さんとの関係は
切りたくなかったのだろう。
へたれることなく何度も通った。
自分でもどんなメンタルをしているのかと
引いてしまうくらいだ。
歩「…。」
花奏「今日さ、宝探しが一通り終わったら住所のとこ行こうと思うんやけど、着いてきてくれへん?」
歩「住所?」
花奏「宝物のひとつに住所だけ書いてあってん。」
歩「そんなのあったっけ。」
花奏「写真は送ってるはずやから、多分見たことあるんちゃう?」
歩「…あー…あれか。」
花奏「あれ、私の家の近くでな。」
歩「どっち方面。」
花奏「えっと…今この駅に来た時と同じ方向側やで。」
歩「そ。」
花奏「歩さん、定期外やない?大丈夫?」
歩「定期内。」
花奏「そうなんや、よかった!」
それとなくひとつの話の流れが終わったら
まただんまりとしている歩さん。
元よりそんなに口数の多い方とは
思っていなかったけれど、
確かにクラスの人とかと比べれば
静かすぎると言っても過言ではない。
だが、私が話しかければどんな言葉であれ
とりあえずは反応してくれるし、
必要だと感じた時には自分から
問うてくれる時もあった。
それだけでどこか喜びを感じる私がいた。
相変わらず馬鹿みたいだ。
それから歩いて程なく
宝物があるというポイントにたどり着く。
赤い点はは公園一帯を覆っていた。
公園はというと、来てみれば
思ったよりも広く、
子供達が数人遊んでいるのが見える。
この時間帯、この曜日はそりゃあ
遊んでいる子供は多いよな。
きゃーと奇声を上げながら
男女関係なく鬼ごっこをしている
子供達の姿に目を細めてしまう。
微笑ましいだなんて
歳をとった感想が浮かんだ。
歩「…人多…。」
花奏「歩さん子供苦手?」
歩「話通じないから嫌い。」
花奏「子供ってそういうところが可愛いやん。」
歩「…。」
花奏「ま、それはええとして…探そか!」
数歩進んで振り返ると、
細々とした春の陽を浴びている歩さんの姿。
彼女の周りだけがどうも
緩やかに冷やされている。
無彩色の中に青が混ざっているような、
そんな感覚がした。
歩「は?」
花奏「は?って言われても。」
歩「一緒に?」
花奏「勿論!」
歩「別の方がいい。」
花奏「なーんでや、そんなこと言わんと一緒に探そうや。」
歩「なんで。」
花奏「だって一緒に探したいんやもん。」
歩「だる。」
花奏「ほら、はよ。」
歩「あーあ、最悪。」
そう毒づきながらも
私の後ろを小さな歩幅で
ついてきてくれた。
程々に広い公園には
子供に限らず子供の親御さん、
それから散歩に来ていたのか
ご高齢の方まで幅広い年齢層の人がいる。
寧ろ同い年っぽい人が
いないのではないかとさえ思う。
ざっくりと探していくも
どうも見つからない。
さすが公園一帯が範囲なだけあって
隠せそうな場所が多く存在する。
しかも、子供達が遊んでいるのもあって
思うように探せていない場所も
ちらほらあった。
歩さんはというと散々嫌だとか嫌いだとか
口にしておきながら
あまり期限は損ねていない様子。
淡々として宝探しをしていた。
かと思えば。
歩「はぁ。」
花奏「どうしたん、ため息なんてついて。」
歩「探すのだるすぎ。」
花奏「それが醍醐味やん。」
歩「簡単に見つかって欲しい。」
花奏「なぞなぞとかすぐ答え欲しいタイプやん。」
歩「…。」
花奏「図星?」
歩「あんたの話に飽きただけ。」
花奏「あーあ、心折れそうや。」
歩「そんな簡単に折れないくせに。」
花奏「脆いもんやで?」
歩「脆かったらこんなぐいぐい話してこないでしょうが。」
こちらを一瞬睨むように
視線を寄越した後、
諦めることなく水飲み場の裏を
覗き込んでいた。
さぼりたいのか直向きなのか。
私にはまだ判断が出来なかった。
それもそのはず。
私達はしっかりと話して
互いの名前を知ってから
まだ1週間程しか経っていないのだから。
私も宝箱を探しながら
歩さんの方を時々確認した。
正直、歩さんは逃げ出していても
おかしくないと思っていたのだ。
私のことはあまりよく思っていないだろうし、
宝探しを楽しむというよりかは
どこか義務感で動いているような気もしたから。
だが、予想に反して彼女は
根気よく探していた。
子供の視線が偶に刺さりながらも
探し続けて漸く。
歩「…あ。」
花奏「どうしたん?」
歩「あった。」
花奏「えっ、ほんま!?」
歩「っるさ。ほら、ここ。」
歩さんが指差したのは
ベンチの座る部分の裏。
しゃがんで覗き込まなければ
見つけられなかっただろう。
ワイヤーのようなもので簡単に固定し、
ベンチの裏に居座っているようだ。
花奏「ほんまや、よう見つけたなぁ。」
歩「あんたが開けて。」
花奏「え?歩さん開けーや。」
歩「どうせ後何ヶ所か行くでしょ。」
花奏「まあ、近場は回ろうと。」
歩「なら後でいい。」
花奏「折角見つけたんに?」
歩「いいからさっさと開けて。」
花奏「はあい。」
歩さんに催促されるがまま
ベンチの裏についた宝箱を少し開く。
相変わらずいとも簡単に開き、
その隙間からはやはり紙。
それを抜き取り軽く揺らしてみるも
固形物のあるような音はしない。
歩「…中身ってそれだけ?」
花奏「うん、やな。」
歩「本当に紙だけなんだ。」
花奏「毎回そうやねん。これまでの宝箱の中身って知ってるよな?」
歩「あんたが散々連絡してきたから覚えてる。」
花奏「あはは、ならよかった。その宝物らもこんな感じで紙1枚だけ入ってたんよ。」
歩「見栄えの悪い紙。」
花奏「古紙っていうか…そんな感じはあるよな。」
私はしゃがんだまま紙を開こうと
折り畳まれている間に指を差し込む。
上から歩さんは膝に手をつき、
若干前屈みになってこちらを見ているのか
影が僅かに私を隠した。
中身は、これまで同様文字。
古めかしい文字。
そして訳の分からない言葉の羅列
…のはずだった。
花奏「…っ!?」
歩「…『伊勢谷真帆路は生きている』…人?だれ。」
そう。
今回は今までと違い、
しっかりとどういう意味だかは分かる。
分かるが、理解が出来ない。
嘘。
この宝箱の中身の、
この紙に書かれていることは嘘だ。
花奏「…そんなはず…」
歩「何?」
花奏「えっ…?」
歩「なんかびっくりしすぎじゃない?」
花奏「っ…。」
動揺してしまって手に力が入るも、
紙をくしゃくしゃに
するまでには至らなかった。
花奏「…何にも。」
歩「は?何でそこで隠すわけ?」
花奏「…。」
歩「じゃあ聞くけど、知り合いの名前?」
花奏「……。」
答えなきゃ。
答えなきゃとは思うものの、
頭の中では想い出が渦を巻いて
私を出してくれようとしない。
夕暮れの川辺を今も鮮明に思い出せる。
ささやかに歌う草木、
耳を宥める水音、
肌の上を滑る生暖かい風。
私の…私の母が
癌で亡くなって直ぐの頃ー。
歩「ねえ、聞いてる?」
花奏「…!」
回想に溺れかけていた私を引き上げたのは
紛れもなく歩さんだった。
長い時間ぼうっとしてしまったのか、
歩さんも同じ目線の高さになっていて
ぎょっとしてしまう。
彼女もしゃがんでは私の目をじっと見つめ、
程なくして私の持つ紙へと
視線を移していった。
歩「誰、これ。」
花奏「………先輩。」
歩「先輩?」
花奏「…うん。小さい頃に出会ってからお世話になってた先輩…なんよ。」
歩「お世話になってた?」
花奏「…っ。…真帆路先輩は亡くなってるんよ。一昨年の秋に…。」
歩「…紙には生きているって」
花奏「そんなはずないんよ!葬儀にも参列したんやから、そんなはずっ…。」
歩「……そう。」
花奏「…っ。」
私があの時大阪に引っ越していなかったら。
あの時先輩の近くにいられたのなら。
もしかしたら。
もしかしたら先輩も居なくならないで
済んだのかもしれないのに。
そんな後悔は数年経った今でも
ふと脳裏を過ることがある。
私のせいかもしれない。
そんな後悔がずっと。
母親の死は漸く受け入れることが出来た。
癌だった、闘病した上での結果だった。
それは受け入れた。
私のせいではないことも理解した。
だが、真帆路先輩の件だけは
未だに引っかかり続けている。
私のせいではないか、と。
『伊勢谷真帆路は生きている』。
誰かの悪戯なのだろう。
もしも本当に生きていたら。
そんな希望を抱いてしまうのは
間違いで無意味だと分かっているのに、
それを捨てきれずにいる私がいた。
馬鹿だ。
私は馬鹿なんだ。
***
夕暮れ時。
昼間から探し始め、
距離の遠い側の宝箱まで
開けにいったものだから
思っていたよりも時間が経ってしまった。
歩さんが「誰も取っていない
宝箱の方も取りに行く」だなんて
突如口にして共に向かった事で、
尚更時間がかかっていたのはあるだろう。
公園で例の紙を見つけて以来、
気が気ではなかった。
過去は私の領地を土足で
ずたずたに踏み荒らしてくるのだから。
今は最後に行こうという話になっていた
住所のところに向かっていた。
数日前に見つかった宝物のひとつに
がっつり住所が書いてあった。
それは私の家の近くで、
2駅進んだ先のところにその建物はある。
その駅は数日前にも降り立っていた。
そう。
美月についてきてと頼まれた時だ。
1度降りた駅ならば
異国のような感覚は薄れ、
顔馴染みである雰囲気が心地良くなる。
歩「…ほんとにこの駅?」
花奏「うん。ここから少し歩いたところやね。」
歩「…。」
…そういえば。
美月と歩さんは昔何かあったと
言っていなかったか。
美月の家はここから歩いて行ける程に
近いのではなかったか。
記憶は曖昧ながら辿ると、
当時の情景がぼんやりと浮かぶ。
浮かぶも直ぐに消え失せる。
人間はどうして忘れてしまう生き物なのかと
少しばかり恨みたくもなった。
歩「ここ?」
花奏「え?あー…ちょっと待ってな。今確認するわ。」
慌ててマップを開くと
どうやらもう1、2戸先のよう。
そのままナビの指示に沿うと、
廃れたマンションのような見た目をした建物。
多分3階建くらいだろう。
ぼろぼろに崩れている部分もあって、
随分と傾いた自然光が
建物内を僅かに照らしていた。
建設途中に辞めてしまったかのような見た目、
そしてそのまま風化していったような。
立ち入り禁止の文字が見えるが、
歩さんは何にも躊躇せず
入っていく姿をぼんやりと眺めた。
子供らが遊びで入らないためにー
花奏「え、ちょっと何してるん。」
歩「見に行く。」
花奏「立ち入り禁止って書いてあるやろ…。」
歩「バレなきゃいい。」
花奏「バレたら犯罪やで。」
歩「ほら、あんたも早く。」
花奏「私もいかなあかんの!?見られたら終わ」
歩「さっき人いなかったしいけるって。」
夕闇と見るこの建立物は
いかにも幽霊の出そうな雰囲気を纏っていた。
歩さんは私から視線を外すと
ふらりと建物の中へ潜っていった。
放っておけばよかったのだろうが、
生憎私はそんな気は持ち合わせておらず、
結局すいすいと歩さんの背を追って
建物内へ入っていった。
ふと後ろを振り返ると、
面しているはずの細い道は
草陰やら瓦礫のような大きい岩やらに
半分程は隠されてしまっていた。
花奏「…石だらけ…やな…。」
歩「…。」
花奏「ねぇ、戻らへん?」
歩「上まで行く。」
花奏「何でそこまですんねんて。」
歩「…。」
不法侵入だろうと思うが、
断りを入れず建物へと入っていく彼女。
扉さえなく、そのまま階段を上がる。
階段は全てセメントで
埋めていたのか知らないが、
ひびは入りつつも崩れまではしなかった。
建物も一部崩れているだけであって
大部分はひび割れで済んでいる。
壁の穴から一直線で光が入っている。
それから最上階まで階段で上がる。
エレベーターの設備らしきものはなく、
床、壁、階段だけの大変質素な場所だった。
最上階に上がり終えると、空が見えた。
天井が一部剥がれているようで。
部屋とは言えず、ただ広めの空間があり、
家具やら何やら
置いているものすらひとつもない。
一体何のための建物だったのかすら
一切見当がつかなかった。
歩「…。」
花奏「……結局1番上まで来てもうたし。」
歩「あんたってさ、一回でも宝探しを休んだことある?」
花奏「え?」
話したかと思えば急に何を聞くのだろう。
甚だ疑問だったが
答えない理由もないと思い、
当たり前のように口を開く。
花奏「ないで。全部参加してる。」
歩「そ。」
今まで背を向けていた歩さんだったが
顔だけちらとこちらを見た。
日差しが入らないからか
目に輝きがないようにも見える。
歩「あれ、ちゃんと参加しといたほうがいいよ。」
花奏「え…どういう事なん。」
歩「言葉の通りだけど。」
花奏「だって今まで歩さん、全く参加してへんかったのにどうして急に…。」
歩「参加しなくていいもんだと思ってたから。でも多分違う。」
私の言葉は聞こえているのに
無視して階段の方へ向かってく。
歩「…さっさと最後の宝箱開けなきゃいけない気がする。」
花奏「…ねぇ、さっきから全然訳わからへんて。」
歩「いいから早くこのレクを終わらせんの。」
もう私の方を見ることはなかった。
それから階段を降りる音がひとつ、
またひとつと耳に跡を残していった。
何もない廃墟は
私達を受けていれていたのか
突き放してきたのか。
今になっても判別はつかぬままで。
***
「ありがとうございましたー。」
愛咲「またご利用くださいませー!」
最後のお客さんが帰った途端、
一気に押し寄せるお疲れ様ムード。
ファミレスでのバイトは
後片付けを済ませば終わり。
「愛ちゃん愛ちゃん、ダスターの替えどこだっけ?」
愛咲「それな、裏のでっかい棚あんじゃん?そこの1番下にあんだよー。」
「あ、あそこかー!」
愛咲「本当に分かってるかぁー?このこのぅ。」
「分かってるよー。分かんなかったらまた聞くよー。」
愛咲「だっははー。いいよ一緒に行ってやるってー!」
従業員のみんなとも程々に付き合いはあり、
偶にご飯に行かないかと
先輩達に誘われることもあったが、
大体は家のことがあると言って
断るようにしていた。
現に、下の兄弟達の面倒を見なくちゃ
いけないからだ。
別に嫌いな事ではないし
寧ろ好きでやっているところはある。
遊び盛りなもんで
一緒に遊んだりお絵描きしたり、
家事の面では大量の洗濯物を洗って干したり
次の日のお弁当の準備を
少しだけでもしたり…と言ったところ。
片親で、母さんは仕事を頑張っている。
勿論家族全員分の生活費を
1人では稼ぐことはほぼ不可能だし、
それに加えて家事だなんて負担が大きすぎる。
それを知っているから
うちはバイトや家事をするようにした。
でも走ることも好きだから
陸上部にも所属した。
今となっちゃバイトも居心地よくて、
時に大変だけどやっぱ楽しい。
全部好きなことだし苦じゃないんだ。
愛咲「じゃあうち机拭いてくっからー!」
「はーいおねがーい。」
うちは当たり前のように
ホールを任されているため、
片付けもホールメイン。
机を拭いて、メニューを並べて。
後、在庫の切れかけた紙ナプキンを
補充したりだとか。
レジ締めだけどうしても出来ない。
うちは勉強が苦手。
だから計算に時間がかかりすぎて
店長や先輩からいじられた思い出がある。
それ以外なら出来んのにな。
…と、内心笑いながら反抗する。
愛咲「そーいや羽澄と麗香、仲良くやってたかねぇ。」
うちは今日、午前は部活、
昼間はちびっ子らを遊びに行かせ、
夕方からはバイトという
スケジュールだったため、
宝探しには参加できなかった。
折角なら参加したかったのによう、と
マスクの下で意味もなく頬を膨らませた。
こういうことをしているから
お化粧が簡単に落ちてしまうんだ。
従業員と話しながらバイトを終え、
お互いお疲れ様と言い合って
その日の外でのやることは終わる。
そして家に帰ってからは
少しばかり溜まった家事をこなすのだ。
愛咲「夜ってちぃっと冷えるなぁ。」
手を擦ると、乾燥しているのか
しゅるしゅるという音がした。
その後、グーパーと繰り返ししていると、
名案が突如空から降ってきた。
愛咲「走ればあったかくなるじゃあねーか!」
…とは言ってみるものの、
残念ながら今日は気分じゃない。
やっぱり荷物が多いことと
朝ではないということがあるだろう。
やっぱ走るにゃ朝なんだよ。
夜だと気分落ちるっていうか、
体の中がリセットされる感覚が
妙に少ないんだよな。
結局走るのは辞めて
ぐーっと手を前に突き出し、
背や腕を伸ばすだけにしておいた。
ふと麗香や羽澄の様子が気になって
スマホを手に取る。
愛咲「っと…歩きスマホはなんちゃらら、だよな。」
はっとして近くの個人経営そうな
塗料屋の麓に身を寄せる。
既に閉まっているようで
シャッターが降りていた。
背を思わずつけると、
がららと夜に響いていく。
音が少ない。
だから夜はあんま好きじゃないのかもな。
スマホの電源をつけると
どことなくスマホが息を吹き返して
暖かくなっているような気がした。
ただ、そういう気がしただけ。
スマホは息をしていない。
流石の馬鹿なうちでも
そりゃ分かるってもんよ。
ここに麗香がいたら
きっと馬鹿にされていたんだろうなぁ。
愛咲「にへへっ。」
いつからか繋がっていた麗香との関係。
出会いこそ悪い意味で衝撃的だったが、
今となってはいい思い出。
麗香もそう思ってくれていたらいいけどな。
愛咲「…?」
ふと。
Twitter以外にも通知が来ていることに気づく。
いつも赤い通知のマークがつくのが
何となく気に入らず、
毎回アプリを開いて通知を消していた。
だから新規の通知が来たら
直ぐに分かるのだ。
ひとつ。
普段全く使わないメールのアプリ。
Twitterと同じ青色なものだから
刹那躊躇ったうちがいた。
愛咲「…んだろう。」
何気なしに開いてみる。
すると、過去何かしらで送られてきた
意味のないメールが数本。
そして最新の欄には。
愛咲「……えっ……?」
最新の欄。
…。
『伊勢谷真帆路』
と。
確と書いてあるのだ。
慌ててメールを開く。
画面に触れる指はありえないほど、
4月とは思えないほど震えている。
『会いたい』
それだけ。
たった、4文字のメールだった。
愛咲「……たに先輩?」
たに先輩…伊勢谷真帆路先輩。
私がこの高校を受験するにあたって
勉強を教えてくれた大切な先輩だ。
中高と一緒だったのだが、
一昨年の秋に亡くなってしまった。
そんな大切は人から、
亡くなった人からメールが届いたのだ。
同姓同名か。
それとも何だ。
幽霊からのメールとでもいうのだろうか。
愛咲「……あっはは…うちも疲れてるんだろうな。」
思えば宝探しで集まった人達は
関わりのない人も多くいた。
正直麗香と羽澄以外はほぼ知らなかった。
三門だって顔走ってても
名前までは知らなかった。
そのような人達と唐突に
宝探しをやれなんて言われたんだ。
その上、うちは今年で3年生。
受験行を決めろだの
オープンキャンパスに行けだの、
やんややんやと先生達は
口を揃えて言ってくる。
去年までとはまた違った圧力に
多少なりともストレスがあったのだろう。
きっとうちがおかしい。
それかスマホのバグだ。
愛咲「……そういや今月の月命日…お参り行ってねーや…だからかな。」
だから、たに先輩は念でも飛ばして
うちの元へきたのだろうか。
背筋はぞくぞくとしたまま、
真っ暗な帰路を辿る。
たに先輩は、もういない。
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