第八話 納骨堂の探索

第8話 納骨堂の探索1



 テルム公爵から許可をもらい、鍵を借りてきた。これで心置きなく納骨堂を調べられる。


 納骨堂は館の西の端にある。一階の最奥から柱廊でつながり、入口には大きな両扉が待っていた。鉄の扉は物々しい。

 テルム公爵によれば、館と同じ五百年ほど前に建てられたらしい。公爵家の者が死んだとき、特別な祭礼のとき以外、ふだんは閉ざされている。


 扉にはかんぬきがかけられ、大きな錠前がぶらさがっていた。また閉じこめられると困るので、錠前とかんぬきは納骨堂のなかへ持って入り、石棺の下に隠した。脚つきの石棺なので、床にすきまがあった。そこに押しこむ。


 今日はランタンのほか、ロウソクも数本持っている。それにマントも着てきた。もちろん、剣は離さない。万全の準備だ。


 納骨堂には窓がない。高い位置に小さな空気ぬきの穴があるだけだ。光がほとんどあたらない密閉空間だ。

 遺体には防腐処理がほどこされているだろうか? それでも、どことなく、すえたような臭気がただよっている。


 広大な空間だ。四方は壁じたいが棚のようにくりぬかれ、いくつもの柩がおさまっている。床にも数えきれないほど石棺がある。この数百年年のあいだに亡くなった公爵家の人々が眠っている。棺のふたには生前のその人の姿が陽刻されていた。


 寝棺のあいだを歩く。

 コツコツと自身の足音だけが響いている。


 ワレスは石畳の床を照らしながら観察した。ここが古代に塔があった場所。そのころの痕跡が残っているとしたら、床面だ。地下への入口が隠されているはず。


 しかし、あまりにも広すぎる。一人で調べるには限度があった。いちいち叩いてまわるのは時間がかかるので、靴音の響きに注意しながら、柩の列のあいだをひたすら前進していく。


 入口の扉に背をむけて進んでいたときだ。カッカッと、とつぜん背後に自分のものとは別の足音を聞いた。かえりみると、逆光になって黒い人影が襲ってくる。手に刃物を持っているようだ。


 ワレスがランタンをさしつけると、人影は顔を覆って隠した。だが、体格から男だということはわかる。


 サミュエルではない。もっと背が高い。子息のなかの誰かだとすれば、ジェロームだ。ただ、フードつきのマントをかぶっているので、ランタンの明かり一つでは、誰なのか特定することはできない。


 男が片手で顔を隠しながら、もう一方ににぎった刃物をふりおろす。


 ワレスはとっさにランタンを柩の上に置き、剣をぬいた。

 襲撃者の武器は騎士剣ではなかった。もっと短い。かと言ってナイフというには大ぶりだ。しかし、騎士剣を持つワレスのほうが、リーチは断然、長くなった。


 後方にとびのいて男の攻撃をかわす。男の武器は、ワレスの騎士剣の半分だから届かない。だが、ワレスのほうはギリギリ切先でふれる。そのまま、まっすぐ剣をつきだし、一歩ふみこむ。レイピアの技巧だが、襲撃者をひるませるには充分だった。


 男は舌打ちをついて逃げていく。ワレスの剣が飾りではないことを悟ったのだ。


(意外とすぐあきらめたな?)


 ジェロームだったのだろうか? なんとなく違和感をおぼえる。あまり剣のあつかいになれていなかったような?

 あるいは高齢で足元がおぼつかない、とか? レモンドの祖父もかなり背は高かった。でも、いくらなんでも、それはないと思うのだが。令嬢の祖父が花婿を殺す理由がない。


 ともかく、襲撃者は去った。

 ワレスは納骨堂の調査に戻る。すみからすみまで歩いてみた結果、たしかに地下に空間がありそうな音はする。一部分だけ、やけに靴音が高く響くのだ。それにしても、そこへ入っていく扉のようなものが存在しない。


 きっと、どこかに隠し扉がある。ここなら床の石畳をとりのぞいても問題ないだろう。明日はツルハシを持ってくるべきか。


 祭壇があれば、その周辺が怪しかったかもしれない。が、それらしいものも見あたらない。広い場所なので、太い柱がたくさんあった。


 床ばかり見ていたが、疲れて柩の一つにすわる。等間隔にならぶ柱を見るともなくながめていると、妙なことに気づく。左右対称であるべきの場所に、一ヶ所だけ柱の位置がズレているところがあった。


 不審に思い、近づいていく。その部分の床を見ると、石畳の石質がほかと違う。周囲にくらべて、かなり古そうだ。


 ワレスの胸はとつぜんドキドキしてきた。

 ここだ。何かが隠されている。なぜなら、古い石畳の中心に薔薇の花のモザイクがある。


(頭上に王冠。足元に荊)


 王冠が塔の胸壁をさしていたのだとすれば、荊はこのモザイクのことだと考えられる。


 このモザイクの下に、地下への入口がある。

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