第7話 古代の地図2
とりあえず、塔が建っていたはずの範囲を計算する。地図に縮尺が書いてないから、図書室の文献をあさって、古代の塔の直径を求めるところからだ。
「この計算だと、古代の塔と重なってるのは、館の東側。今の大食堂があるあたりと、その周辺の一部の客室」
「大食堂の床はほれないね?」
ワレスはうなった。
「そうだなぁ。晩餐会のために作られた豪華な部屋だからな。床にも最高級の大理石が使われてる」
床をほりかえすわけにはいかないようだ。それも、塔と合致しているのは、かなりの広範囲だ。そうとうの面積をほったあげくに何も見つからない、なんてことになった日には悲劇だ。
「塔の地上部分は現存してない。今でもソレがどこかに眠っていると仮定しても、探せるのは地下だけだ。地下のどこかに残ってるという保証もないが」
ただ、地下部分に人知れずまだあるという可能性は少なくないと、ワレスは考える。なぜなら、塔の地上より上のどこかに宝物庫でもあったなら、塔を壊すときに必ず、古代兵器は見つかっているはずだ。それが出てこなかったというのは、地下に埋蔵されていたからではないかと思案する。
「せめて、床をはがずに調べられる地下がないかな?」
「ワレス。大食堂の下は葡萄酒の地下貯蔵庫だ」
「今の館を建てるときに、ほりかえした部分には秘密の保管室はなかったと思うけどな。まあ、古代の礎をそのまま使ってるかもしれない。調べてみる価値はあるな」
というわけで、ワレスたちはここ数日、地下の酒蔵に入りびたりだ。知らない人間から見れば、昼間からこっそり公爵家の高級な酒を飲みあさっていると思われかねない。
が、じっさいには暗い地下で、妙な空洞がないかと壁や床をたたいてまわる地道な作業に明け暮れている。
「ないな」
「ないね」
「ここじゃないのかもしれないな」
「まあ、二人でできるかぎりは調べつくしたと思うよ。ワレス」
「だよな」
床や壁面だけじゃない。手の届かない上部や天井を調べるために、ハシゴまで使って、徹底的にたたいてまわった。木琴のばちが、これにちょうどいい。音楽室から拝借してきたのだ。
「大きな
やはり、大食堂の床を全部、はぎとるしかないのだろうか? そこまではしたくないのだが。
「しょうがないな。明日からは別の場所を探してみよう。地下室はほかにもあるだろう」
それにしても、立派な酒蔵だ。ユイラ産の希少な葡萄酒や、庶民的な飲み物であるザマ酒の大樽がいくつもならんでいる。そのほかに棚が壁に造りつけになっていて、ボトルに入った外国産の葡萄酒がたくさん保管されている。棚の一つずつに腕をつっこんで、奥の壁をたたくのに、ずいぶん苦労した。
「すごいコレクションだね。あたり年の葡萄酒が樽でとってある」
「おまえの家にもあるんじゃないのか?」
「まさか。うちには父上が秘蔵してる数十本のボトルがあるだけだよ」
「テルム家は金持ちだな」
そんな話をしながら、大樽のよこを通りすぎ、一階へあがる階段へむかっていた。
そのときだ。
階上で何やらガラガラと音がする。地下の大空間にそれは雷鳴のように響いた。
「扉のほうだ」
階段の出入口には鉄の扉があった。扉の鍵は借りてきていた。が、その扉には長いかんぬきがついていた。
(まさか……?)
あわてて走っていく。
階段の下から見あげると、あけたままにしていたはずの扉が閉まっている。うっすらと見えていた外の光がほとんど差しこんでいない。
ガチンとダメ押しに硬質な音。
「やられたな」
「えっ? やられたって……」
ランタンを持っているから、視界には困らない。せまくて急な石段をのぼっていくと、思ったとおり、鉄の扉はひらかない。外から、かんぬきをかけられたのだ。
「誰かに閉じこめられた」
「えっ? なんで私たちが? まさか殺そうとして?」
「死にはしない。地下は広いから呼吸困難になることはないし、食料はないが飲み物はある。とうぶん、餓死はしない」
「えっ? 飲み物?」
「あるじゃないか。酒蔵なんだから」
「いや。勝手に飲むのはどうだろう」
「そんなこと言っても、ほかに何もないだろ。とは言え、ここの鍵を家令に断って借りてきた。晩餐会までにおれたちが帰らなければ、誰かが迎えに来るだろう」
誰の仕業か知らないが、屋敷の者なら、日ごろ、この酒蔵には鍵がかけられていて、その鍵は家令が持っていることを知っている。
つまり、鍵があいていれば、ふつうなら家令がなかにいる。
家令をこの酒蔵に閉じこめるはずはないから、その何者かは、ワレスたちがここに入っていることを知っていて、警告のために監禁したのだ。
これ以上、事件に深入りするな、と……。
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