三章 古代兵器を求めて
第七話 古代の地図
第7話 古代の地図1
シロンが亡くなってから、レモンドはますます自室に閉じこもるようになった。
ブリュノはギュスタンの屋敷へ行ってしまうし、公爵家は以前ほどのにぎわいがない。
「なんだか、つまらないわねぇ。ジェロームは遠乗りばっかり。サミュエルはぼんやりしてるし、話し上手なブリュノがいなくなって、さみしいわ。ねえ、ワレス。あなたは事件にかまけてるし」
ジョスリーヌがあてこすりを言ってくるので、ワレスは苦笑した。
「いろいろ調べることがあるんだよ。そんなにヒマなら、いつものとりまきを呼べばいいじゃないか? 劇場のやつらとか」
「あら、楽しそうね。さっそく手紙を書きましょう」
帝立劇場の舞台監督もしている作曲家のリュックへ手紙をしたためるジョスリーヌを見て、ワレスは彼女の部屋を退出した。
夜はジョスリーヌとすごし、昼間はジェイムズと館を探索する。そういう日々が続いている。
失われた古代兵器を探しているのだ。シロンの殺害は刃物によるが、リュドヴィクは何で殺されたのか、ハッキリとわかっていない。そこを解明するだけでも、犯人に近づけると考慮した。
テルム公爵にお願いして、例の千年前の写本をもう一度、見せてもらった。大事だと思えることをメモし、いかにも怪しげな地図を写しとる。
「これは古代兵器の保管場所だな」
「そうだろうね。でも、よくわからないなぁ。謎めいてる。この上に書かれた文言はなんだろう?」
ジェイムズが示すのは、ページの右上に記された短めの文章だ。
『頭上に王冠。足元に
かなり古い文体で、今は使われない古代語だ。学校で古語を習ったワレスたちだから解読できるが、私塾で最低限の読み書きをおぼえたていどでは理解不能だ。
「たぶん、保管場所を示すヒントだろう」
「荊って薔薇のことだろう? この館は黒薔薇だらけだからなぁ」
「庭の黒薔薇は後世に植えられたものだ。この写しでさえ千年前なんだからな。原本が書かれたとき、今の黒薔薇が存在してたとは思えない」
「だとしたら、薔薇をさしてないのかな?」
「そこは調べてみないとな」
というわけで、調査だ。
古文書に記されていた地図は、どうもこの館の周囲をふくむ全体図らしい。しかし、それも今の間取りじゃない。築城当初のものだ。今とはまったく建物の配置が異なっている。
「テルム公爵。今の館と古代のそれをくらべてみたいのですが、現在の見取り図のようなものはありますか?」
「わが家が現在のようになったのは五百年前だ。それ以来、補修はするが、建て替えはされてない」
「五百年か。古文書が写されたころから、さらに五百年も経過してるのか」
「とりあえず、今の館の建て替え時の設計図は残っている。渡しておこう」
「ありがとうございます」
テルム公爵に頼んで、設計図をもらった。古い図面とくらべてみれば、なんとなく、現在との位置関係はわかる。
「昔の建物はずいぶん小さかったんだな。
「今は城壁はないね」
「戦国時代じゃあるまいし、維持が大変なだけだろ。そんなものあったって」
「騎馬兵が大挙して攻めてくることはないだろうね」
シャトーの大きさじたい、今の十分の一以下だったようだ。部屋数が極端に少ない。客室なんて、ほんの五つだ。テルム家が古代兵器を任された当初、ここはそれを守るための要塞だったのだと、図からわかる。
今のように家柄が、格式がと持ちあげられて、尊ばれる家名になったのは、時代がかなり後世になってからなのだろう。
「古代に兵器を隠しておける場所なんて、かぎられてたはずなんだがな」
「建物のなかだろうね」
「狩小屋のはずはないから、館か塔だな」
とは言え、館も塔も当時のものは残っていない。建て替えのどこかの時点で、隠し場所を知らされず、そのまま崩してしまったなんてことがあるだろうか?
ワレスは考えこむ。
「やっぱり、隠してたのか? だから誰もがその所在をわからなくなった? しかし、最初のうちは宝物庫のような場所をもうけ、そこに常時、見張りをつけて守っていたはずだ」
「それか、壁のなかに塗りこめるとかしたんじゃないかな?」
その可能性はある。
たとえば、地下に兵器の保管室を作り、そこを完全に石畳でふさいでしまう。安易にほりかえされないよう上に塔を建てれば、守りも万全だ。
そう思ってみると、塔は怪しい気がした。
「ジェイムズ。この塔の
胸壁というのは、塔や城の最上部にある背の低い壁のことだ。たいていデコボコして、王冠の形に似ている。
「あっ、ワレス。塔の下の中庭に薔薇がある。ワイルドローズだって。たぶん、野生種だね?」
「頭上に王冠、足元に荊。塔で決まりだな」
しかし、問題は今、その塔はないということだ。現在の城と比較すると、古代に塔があったとおぼしい場所は……。
「本館の真下だな」
「……床に穴あけたら、テルム公爵に怒られると思うかい? ワレス」
「場所にもよるんじゃないか?」
塔のあった場所というだけでは、あまりにも範囲が広すぎる。そのすべての床板をはぐわけにはいかなかった。もっと焦点をしぼらなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます