第3話 古代兵器2
どちらの問題から聞こうかと、ワレスは考える。しかし、公爵が話す気になっているのだから、まずは古代兵器についてだ。
「テルム公爵。晩餐の席で、古代兵器のことを聞いたとき、あなたは明確に答えてくださらなかった。まるで他人に知られてはいけない隠しごとにふれられたときのように青ざめた。いったい、あなたは何を隠しているのですか?」
すると、テルム公爵は緻密な
「悪いが、ギュス。君は出ていってくれないか」
「なんと、私にも聞かせられない話なのか?」
「うむ。そういうことだ」
ギュスタンはワレスのために身をひいてくれた。これがジョスリーヌなら、わたしにも聞かせてよと、さんざんごねるところなのだが。
「わかった。では、また明日。マイボーイ」
「だから、あなたのものではない」
ギュスタンはワレスの頬を両手で包み、そっとひたいにキスをしてから退室していった。思いのほか遠慮がちなキスだったので、逆に意外だ。
テルム公爵のこわばった表情が少しゆるんだ。
「ギュスタンはあいかわらずだな。まったく羨ましいほど自由奔放だ」
「あなたは深い苦悩をかかえていますね?」
「うむ。これから話すことは他言無用だ。決して誰にも明かさないと約定してくれ」
「誓います」
ワレスが約束すると、ようやくテルム公爵は話しだした。
「二千九百七十八年前。わが家はある神器を、当時の皇帝陛下から賜った。もともとは皇宮の奥深くで眠っていたものだという。だが、それを守る専門の役職として、わが家を任命された。その武器を争いに用いてはならぬという初代皇帝陛下の
前置きが長い。そうとう話しづらいことなのだろう。こうして外周を語りながら、じょじょに核心をつくことで、そのあいだにテルム公爵は決心をかためているようだ。
「それはどんな形状で、どのような性能を持つのですか?」
「小さな鉄のかたまりだ。だが、火を吹く玉を放ち、人を一瞬で殺すことができる。恐ろしいのは、女子どもでも大人の男を殺す威力を持つ。ただスイッチ一つ押すだけで」
「なるほど。そんなものが大量に出まわれば、恐ろしい世の中になりますね」
ワレスは騎士学校で剣を習い、飾りだけとは言え、腰にそれを帯びて生活している。だから、その気になれば人を殺せる。人殺しの技術を教えられているからだ。
また、鉄の片手鍋を持った体格のいい女なら、それで夫をなぐり殺すことはできるだろう。殺人に足る力を有している。
どちらにしろ、あるていどの力とタイミング、技量が必要だ。それに、相手を殺そうという強い意思も。
だが、もし、ポンと指一本で、子どもが大人を殺せるようになれば、それは世界革命だ。戦争の形式も今とはまったく異なるようになる。
大量虐殺が可能な世界になってしまう。
ユイラの初代皇帝はおそらく、それを見越して、その武器の製造を禁じたのだ。
かわりに魔法が発達し、建国から千年は魔術の黄金時代と呼ばれた。古代の力をすて、新しい力を求めた。そのほうが時流にあっていたのか、世界を破滅させる道を忌避したからか。
しかし、ユイラの建国は四千年前とも、五千年前とも言われる。そんな時代から伝わった武器なら、もはや形骸も残していないのではないだろうか? 鉄製のものなら、とっくにさびて朽ちているはずだ。
「これが、その武器に関する文書だ。これは千年前の写しだが」と、テルム公爵は鍵のかかるひきだしから革表紙の書物を持ちだし、ワレスの前に置いた。
ワレスは古い革をくずさないよう気をつけつつ、なかを見た。その武器の構造などが詳細に説明されている。何やら筒状の本体から火薬の推進力で鉄の玉を打ちだすようだ。きわめて小型の投石器のようなものか。
「なるほど。前々から、疑問だったのだが、皇室が花火職人を占有しているわけが、これでわかった。火薬を用いて武器に転用しようとする者が現れないように、監視しているのですね?」
「そういうことなのだろうな。そちらはわが家の管理ではないから、よくは知らないが、秘密に近づきすぎた者は、死ぬまで幽閉されるか、ひそかに処刑されるようだ」
まったく恐ろしい秘密を知ったものだ。つまり、この武器の製造法をたったいま知ったことが他人に露見すれば、ワレス自身も処刑されるかもしれない。これでは他言したくてもできない。
「テルム公爵。あなたがこの事実を人に話したがらない理由はわかりました。それに……」
ワレスが顔色をうかがうと、公爵はますます青くなる。眉間の深いたてじわを指さきでもんだ。
「そう。そこなのだ」
「ええ。なんだか、リュドヴィクの死にかたは、その兵器を用いて殺されたように見える」
リュドヴィクの体を胸から背中まで貫通していったのは、矢ではなく、鉄の玉ではないのだろうか?
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