第29話裕子さんの過去

【裕子さんの過去】

裕子さんはしばらくうつむいたままじーっと自分の手を見てから、ゆっくり缶ビールを飲み干し、話始めた。


「いいけど、聞いたら引くわよ、それでも聞きたい?」


「はい、裕子さんがイヤじゃなければ聞きたいです。」


「ふ~ん、じゃあ話すわ」


そう言って、俺に向って姿勢を正し、深呼吸して、話始めた。


「最初の旦那は、お見合い結婚なの、私って、この見た目でこの体つきじゃない、昔からいろんな男性が寄ってきてね、だからそういう男にはまったく興味がなかったの。

普通に大学を卒業してOLしていたんだけど、ある日、父がお見合い話を持ってきたの。

会ってみたら、おとなしくて、とても誠実そうな人だったの、それで半年ほどお付き合いして結婚したのね。

最初の半年くらいは何もなくって、最初の印象どおり、おとなしくて誠実でとっても良い人と思ってたんだけど、だんだんね・・・

暴力を振るうようになってきたの、何か気に障る事があると、殴るし、髪の毛を引っ張って、お風呂場まで引きずられて、冷たいシャワーを浴びせられたりしてね、普段はおとなしいし、外面は相変わらずだから近所の人も両親もそんな事をする人に見えないから、全然わからないんだけど、それがだんだんエスカレートしてきて、ちょっとした事で怒り出して、もう耐えられなくなってね。

ある時、旦那が仕事で出かけた時、実家に逃げてきたの、母は私の体にあるアザを見て信じてくれたんだけど、父がね、旦那や向こうの両親の言う事の方を信じて、なかなか離婚できなかった。

だけど、病院で診断書を書いてもらっておいたから、それで弁護士に相談してなんとか離婚できたの、そのお見合いは父が持ってきたっていうのもあるし、向こうの父親と親しかったらしく、それにその旦那は普段は、ほんとおとなしくて真面目だから、なかなか私の言う事を信じてもらえなくて、耐えられなかった私が悪い、そんな事を言う父にイラっとしたわ。

 結局、実家に戻って、何もする事がなかったから、父の仕事を手伝っていたの。

父は地元で小さな会社をしていて、人手不足だった事もあるから、出戻りで何もしていない私がいてちょうど良かったのね」


「それって、一方的に相手が悪いんじゃないですか、離婚して当然じゃないですか、でもお父さんもちょっとあれですね」


「そうよね、実の父が信じてくれないって、結構つらかったわ」


そう言ってから、ちょっと間をおいて次の結婚話になった。


「バツイチだけど、実家で父の仕事を手伝っていたから、そういう意味では平和に暮らしていたのよね、この時はもう結婚しなくていいかなって思っていただけどね。」


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