第4話別れ

【別れ】


 それから2週間ほどたった頃、俺の休みの日にマンションの前に元カノが立っていた。


 午前11時ころ、寝ている所にスマホが鳴った。


 こんな日のこんな時間に電話が鳴るなんて・・・と相手を確認せず出てみると、

「もしもし、克己」元カノだった。


 寝ぼけていた俺は、ふいをつかれ、なにも考える間もなく

「はい」と普通に答えてしまった。


「今日、休みよね、今マンションの入り口にいるんだけど、これからそっちに行っても良い?」


 いくら何でも、元カノ、この部屋を見て何か言われるのイヤだし、自分の中では終わった人だから、部屋にはいれたくない、だって……


「ゴメン、ちょっと待って、今そっちに行くから」


 そう言って、そのままジーンズとパーカーを着て、ダウンを羽織り急いで入り口に降りて行った。


「やあ」


「やあって、今起きたばかりって顔ね、頭もボサボサだし、どうせ仕事で疲れてるからって1日中寝ているつもりだったんでしょ」


 確かにそうなんだけど、会って早々、浮気して別れた(ふられた)元カノにそこまで言われるのはちょっとムッとして


「別に、もう関係ないんだからいいだろ 」


「そう、部屋には入れてくれないのね、ここで話してもなんだから、行くわよ」


 そう言って彼女はスタスタと歩き出した。


 付き合ってた頃はよく彼女もこのマンションに泊まりに来たり、食材やらいろいろと買い出しにいったりした街だから、まわりにどんなお店があるかも熟知しており、彼女とよく行ってた喫茶店の前まで来て


「ほら、早く入って」


 何をそんなに苛立っているのかと思うほど、機嫌が悪そうにせかす。


 本来なら俺の機嫌が悪く、彼女は罪悪感でおとなしくしているものと思うんだけど……


 奥の席に座って、彼女はお昼、俺は朝昼兼用で、パスタとコーヒーとケーキのセットをそれぞれ頼み、水を飲んでフーッと溜息をついたところ


「このお店も良く来たわよね~、違う味のパスタを頼んで半分づつシェアしたり」


「そうだな、ケーキなんか、俺は1口づつ食べて、後の残りは全部、彩が食べてたよな」


「そうね、太る~でも食べたい~って、小さい事でも、いつも、私の事考えて行動してくれて・・・・楽しかったね」


「ああ」


「それがいつの間にか仕事が忙しいとか言って全然・・・連絡もしてくれなくなって・・・」


「その結果が、アレ、か・・・」


「・・・次の日、『お幸せに』ってそれだけ?」


「いや、だって、俺が声かけて、目があったのに、彼氏とコソコソ話して、俺を睨んで2人で行っちゃっただろう、それ見てどうしろって?」


「怒らないの? そいつは誰だ何してるんだ! とか お前は誰だ、こいつは俺の彼女だ!とか 」


「そりゃあ、無理だよ、こんな俺なんかに・・・」


「なんでよ、全然会えなかったから?ねえ、私達の仲ってそんな程度なの?」


「はあ? 何言ってるんだ? あの日お前が他の男と一緒にいたんだろ?」


「そうだけど・・・気にならなかったの?あの後2人でどこに行ったのかなとか、あのままホテルに行ったのか、とか」


「・・・行ったんじゃないの?」


「何よ!私が他の男とそういう事しても平気なの?」


「ああ、あんなもの見せられたら、そうなるわ」


「ひどい」


「はあ? どっちが?」


 2人ともこれ以上の言葉が出てこず、黙ったまま、しばらく沈黙が続いて


「なあ、彩、今日は何しにきたんだ?」


「確かめに来たの」


「はあ?」


「だから、克己の気持ちを確かめに来たの」


「俺の気持ちを聞いてどうする?

 俺が好きだって言ったら、やり直そうとか言うのか? 今更、あんなの見せられて、それは無理だろ、

『私は新しい彼氏ができて幸せです、だからけじめをつけにきました』でいいだろ」


「私、克己の事が・・・」


「あのな、何度も言うけど、あんなの見せられて、今更俺とよりを戻そうなんて、何考えてるんだ?」


「でも、克己がまだ私の事が好きだったら、やり直せると思うんだけど」


「無理、俺の気持ち以前に無理」


「だって、克己が全然会ってくれなかったんじゃない、いくら忙しいからって、私だって寂しかったし、不安にもなるし・・・」


「だからって、別の男とそういう事やっていいわけないだろ、俺と目が合ってもそのまま2人で・・・それがどういう事かわかるだろ、彩は俺じゃなくてあの男を選んだ、俺と彩の関係はそれでおしまい それだけの話なんだよ」


「そんな~」


「なあ、もういいだろ?あの男とうまくやれよ、俺はこの会社にいる限りずーっとこんな生活だから・・・」


「・・・・・・」


「何度も言うけど、この会社にいる限り無理なんだよ、だから彩は 『他に好きな人ができたから別れてください』 って言っておしまいにしてくれよ」


「克己はそれで平気?」


「・・・ああ」平気なわけない・・・


「・・・・・・」こんなやり取りばかり続く、


 俺が耐えられない・・・そんなすぐきらいになれるわけない。


 このまま話を続けたら折れてしまう、でもきっと今までと変わらない、あの男との関係を聞いたらもっとつらくなるかもしれない、そう思うと・・・・・・


 俺は伝票を持って、


「それじゃあ、元気でな」立ち上がろうとしたら


「・・・ねえ、私の事好きだった?」


「ああ、結婚して、子供ができて、一生一緒にいて、同じお墓に入るんだ、って想うくらい大好きだったよ」


「・・・そうだよね」悲しそうな顔をしているけど・・・


「それだったら『でも今の俺じゃあ無理なんだ・・・彩、今度はうまくやれよ』」


「・・・ごめんね」


 俺は彩を置いて、そのままレジに行き、会計をすませ、外に出る。


 少し待っていたけど、彩は出てこない、


 このまま待っていても、俺は未練が残り、つらくなるだけだと思って、そのまま黙って1人、自分のマンションに向かって歩きながら、


「彩は全然悪くないよ、忙しくて会えなかった俺が悪いんだ、ごめんな、今度こそ幸せになれよ、元気でな、さよなら」


 とRINEして・・・ブロック・・・できないよ。


 精いっぱいの見栄とかっこつけ・・・今頃になってこみ上げるものが・・・


 帰りにコンビニで弁当とビールやお茶やつまみになるものを買って、部屋に戻り、まだ夕方にもなってないけどビールを飲みながら、彩と一緒だった楽しかったころを思い出す。


 今のままだったら、もしやり直してもまた同じ事を繰り返すんだろうな・・・そのままカーペットの上で寝てしまった。


 夜の1時に、腹が空いて目が覚めたので、弁当を食べ、シャワーを浴びて・・・本当にこれで1人ぼっちになったんだ・・・


 次の日も、お腹がすいたら、コンビニで弁当とビールを買って部屋に戻って、弁当をおかずにビールを飲む。


 それ以外は全く部屋を出ないで・・・気づいたら朝。


 結局、彩の事を引きずったまま休みが終わり、またいつもの社畜生活に。


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