Another view1:無色透明の心

ㅤ人が倒れていた。両手足をいっぱいに広げて倒れている。

ㅤよくこの世界は人が死ぬ。魔物に襲われる、人同士の醜い争い、不慮の事故。だけど、この男の人はまだ息があった。


ㅤ「大丈夫!?生きてる?」


ㅤ意識が戻ってきたのか、少しずつ瞼が動く。完全に瞼が空いたところで、アスクル語とはまるで違う言葉で何かを言った。


ㅤ「助けてくれてありがとうございます!」


ㅤ目の前で何かアクロバティックな動きをしているが、どうしたのだろう。あまりよくわからなかった。

ㅤすると、背負っている袋から何か取り出し始めた。


ㅤ「参ったな……」


ㅤ取り出したペラペラの何かに棒のようなものを押し当てて、絵を描き始めた。この人はどっから来たのか。

ㅤそもそも、その袋も不思議な素材でできているし、このペラペラと棒も夢を広げるなにかだった。


ㅤ「できた……」


ㅤ一生懸命に描かれたその絵からは、おそらく大きな魔物が現れて襲われたような様子が見られた。

ㅤ私はまだ魔物に襲われたことがない。でも、見たら逃げろと村の人に言われるほど、魔物は怖いものだ。


ㅤ――――――ぎゅっ


ㅤ気づいたら、男の人を抱きしめていた。死ぬかもしれない状況で、必死に逃げてここまできたのだ。自分だったら外には出たくなくなるだろう。この人も少し震えている。



ㅤ何より、この人の心の色は無色透明だった。


ㅤ私は、特性:拈華微笑というステータスを持っている。人の心に関与することができるらしい。その1つとして、人の心の善悪が色でわかる。

ㅤだけど、心が見えないのは初めてだった。


ㅤ「名前…………エスプル。よろしく…………ね」


ㅤこの人は、多分いい人だ。怖かったけれど、翻訳のスキルで挨拶をした。男の人は、口をぱくぱくさせて驚いていた。


ㅤ「僕は師走って言うんだ、よろしくね!」


ㅤしわす……どことなく綺麗な名前。

ㅤ師走は上手ではない翻訳スキルも快く応じてくれた。

ㅤとりあえず、なんとか師走は動けそうだったので近くの木の実の群生地に連れていった。


ㅤ「うっまいっ!!」


ㅤまた知らない道具を取り出したり、アンブシュの実を触って毒にやられかけたり、いろんなことがありながらも、師走との時間は本当に楽しかった。



ㅤ「どっか歩けば村とかあるかなぁ……」


ㅤ師走ともっと遊びたかった。師走も別に目的地があるわけでもなさそう。うちの村は優しいから、師走も歓迎してくれるはず。

ㅤわがままだとわかってたけど、無理やり師走をアスクル村へと連れていった。



ㅤ「そんちょー!!お客さん連れてきちゃったんだけど、余ってるお家とかあるー?」


ㅤリタルダントにお願いすれば、大抵解決してくれる。


ㅤ「えぇ!?今かい?そんな家なんて……と言いたいところだけど、ないこともないなぁ」


ㅤ「やった!」


ㅤ「お客さんって、門の前に立っている男の人かい?」


ㅤ「そだよ!頻闇の道で倒れてたの!」


ㅤ「怪我はなさそうかい?」


ㅤ「大丈夫だと思う!とてもいい人なの!」


ㅤ「そうか。そこの3軒先のお家は空き家になってるから、そこを使ってもらっていいよ」


ㅤ「ありがとう、そんちょー」



ㅤ師走をお家に案内したときに、師走は目をキラキラと輝かせていた。そんなにこの家が気に入ったのかな?普通のおうちだけど。

ㅤそんちょーのところに、挨拶に行くと師走が言ったので、ついて行った。師走はほんとに真面目だなぁ。

ㅤ「そんちょー!いるー?しわすが挨拶したいって!」


――――――カタッ


ㅤ「いや、随分と律儀な人だね」


ㅤ私の翻訳で挨拶を済ませた師走は、とてもまっすぐな瞳をしていた。相変わらず、心は見えない。

ㅤそんちょーが不意にある提案をした。


ㅤ「エスプル、明日村の案内を師走くんにしてあげたらどうだい?」


ㅤ「する!する!」


ㅤまた師走と遊べる!明日も楽しみになる!

ㅤそんちょーが提案してくれたあと、解散となった時に、ちょっとそんちょーの心が濁った。そんちょー、また夫婦喧嘩でもしたのかな。



ㅤ「しわす!おや……すみ……!」


ㅤ師走に木の実をいくつか置いて、お別れした。今日はとても楽しかった。明日も絶対に楽しくなる。自分の心がなんだか暖かい気がした。

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