第5話ㅤ異世界らしさに惹かれて

ㅤ初めて異世界で夜を越した。思ったよりしっかり寝れた。朝は雲ひとつない快晴になった。


ㅤ「しわすー!」


ㅤ「おはよ……」


ㅤ元気いっぱいなエスプルに比べて、僕はまだ眠い……それでも、拳を合わせる挨拶は何か元気をもらえる。


ㅤ「むら!……あんない!……する……よ!」


ㅤ「うん、よろしくね!」


ㅤ昨日エスプルからもらった名前も知らない果実をかじりながら、エスプルについて行くことにした。

ㅤ一言に村と言うと、日本の土器や石器を使っていた時代の遺跡をイメージしがちだが、それよりは遥かに広く感じる。某遊園地ぐらいはあるのではなかろうか。村をちゃんと見るのには半日かかると村長が言っていた。


――――――もぐもぐ


ㅤ「全くわからないけど、どこから行くの?」


ㅤ「ギルド……さいしょ…………いく!」


ㅤいきなり楽しみなところ来た!現実世界にはありえない場所、ギルド。いろんな異世界系ラノベ、アニメを見てきたが、この世界はどうなっているのだろうか。


ㅤ――――――もぐもぐ、ごくん。


ㅤ「しわす!…………ついた!」


ㅤ「はやいっ!!」


ㅤ食べ終わりそうという段階で、どこぞの企業の本社かと思うような立派な木造建築の前に着いた。

ㅤ扉はとても大きい両扉だが、開けっ放しになっていた。中に入ると、多くの種族の人達がギルドに存在していた。皆、杖や長剣、弓矢といったロマンあふれる装備をしている。


――――――異世界っ!!!


ㅤ異世界に来たことを自覚していながらも、どうしても現実世界とは違う新鮮な光景に、気分が高揚する。


ㅤ「しわす!ギルド……の……ひと……はなす!」


ㅤ「あぁ……行こっか。」


ㅤ文字は読めないが、どうやらギルドの窓口はかなり多くあるが、商業ギルド、薬学ギルド、娯楽ギルド、冒険者ギルドの4つに分かれているようだ。


ㅤエスプルに連れられたのは、1番端っこにある窓口。この窓口だけ、カウンターとかではなく椅子とテーブルがある。

ㅤエスプルが先に窓口のお姉さんと話している。少し話したところでお姉さんは納得したような顔で、どっかに行ってしまった。


ㅤ「しわす!ここ……!すわる……!」


ㅤ「おっけー」


ㅤすると、程なくお姉さんが戻ってきた。いきなりブレスレットを渡された。


ㅤ「しわす!それ……つける!」


ㅤ言われるがままに、つけてみる。


ㅤ「私の声、わかります?」


ㅤ「しわす、わかる?私の言葉通じてる?」


ㅤギルドのお姉さんの言葉も、エスプルの言葉もはっきりとわかる。日本語で。


ㅤ「なんで?」


ㅤ思っていたことが、口に出てしまった。


ㅤ「ギルドは村単位で各々設立されているのですが、この世界は様々な言語を話す方の為に、コミュニケーションに困らないように、ギルドに1つ、翻訳Lv5のブレスレットが渡されております」


ㅤすっごい丁寧に答えてくれた。でも、こうやってコミュニケーションが円滑になるのは、手続き的にもありがたい。


ㅤ「エスプルさんにお聞きした所、師走さんは旅をしていて、昨日このアスクル村に来たと伺いました。ギルドも見たところ、初めてのようですのでご説明致します」


ㅤこの世界の常識をだいぶ知ることができた。

ㅤまずは、冒険者について。冒険者は人を守る職業で、基本的には依頼をこなすことで仕事をこなす。ギルドの掲示板、特注依頼、専用依頼とダンジョン攻略をギルドに報告することで完遂らしい。当たり前だが、自分の命の保護は自己責任であって、依頼は慎重に選ぶよう釘を刺された。


ㅤ次に通貨について。この世界も10進法であることは助かった。鉄貨幣、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、紫金貨の順番で高価になっていく。庶民が触れるのはせいぜい銀貨までらしい。

ㅤ「しわす!何となくわかった?」


ㅤ「なんとなくだけどわかったよ!」


ㅤ「では、最後にナイトノートを作ってしまいましょう。この白いカードに手をかざしてください」


ㅤ「ナイトノートって、なんですか?」


ㅤ「冒険者ギルドにおける証明書のようなものです。ギルドだけでなく、様々な手続きに必要になるので無くさないようにしてください」


ㅤかざすと、一瞬手が熱くなって、カードに自分の情報が書かれていた。



ナイトノート

[ステータス]

名前:サガエㅤシワス

適役:剣士

装備:ふつうのリュック

特性:徴羽之操

スキル:




ㅤ出来た……が。カードなのかと思ったナイトノートだが、極薄型端末のように画面操作ができる。どういう技術になっているかはわからん。

ㅤステータスも思っていたより簡素だ。項目も5つしかない。特性とか、適役ってなんだ。分からない。


ㅤ「適役はいわゆる現時点での役職のおすすめを、師走さんの情報から読み取ったものになります。役職が決まると、適役から役職に変わります」


ㅤ「なるほど!あの…………特性って……何ですか?」


ㅤ「特……性?私にも分かりかねますが、そのナイトノートの情報は、個人情報になりますので信頼のおける人物以外の公開は絶対になさらないようにお願い致します」


ㅤ「わかりました。ありがとうございます」


ㅤギルドの人がわからないってなんだ……?と思いながらも、無理やり納得した。


ㅤ「しわす!次はオルパスに行こ!お姉さん、いろいろとありがとう」


ㅤ「いろいろとありがとうございました」


ㅤブレスレットを返して、お姉さんにお礼を言うと、エスプルに手を引かれるがまま外へ飛び出した。




――――――オルパス


ㅤこれが自分の運命を変えるものになるとは、思いもしなかった。

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