第2話ㅤ一期一会から始まる物語
ㅤ緑。木漏れ日。鳥のさえずり。
ㅤ辺り1面の大自然に圧倒された。なぜ目の前がコンクリートではないのか。これは、いわゆる……
ㅤ――――――異世界。
ㅤ「来ちゃったか」
ㅤ異世界転生物のラノベやマンガが流行る現代社会、1度はフィクションの主人公みたいな異世界転生に憧れた……んだが。
ㅤ「これは聞いてないよ」
ㅤわからん。この後、どうしたらいいってんだ。
ㅤ異世界転生って、神様にあって特殊なスキルを授けてもらうとか、王様に召喚されてステータスを確認してみろとか言われて勇者になる感じではないのか……!?
ㅤ――――――ササッ
ㅤっ!?
ㅤ茂みが揺れた。恐る恐る顔を上げてみる。
ㅤ眼前15m。茂みから立派な角を持ったシカ型のモンスターと思われる生物がいた。
ㅤ「やばっ」
ㅤ「グゥオォォォォ!!!!」
ㅤあの角で突き刺されたら命はひとたまりもない。これは――――――死ぬ。
ㅤ異世界来てからわずか10分ほど。涙目になりながら走り続ける生物と化していた。
ㅤ「はぁ……はぁ…………」
ㅤやばい。疲れた。リュックなんて捨ててくればよかった。
ㅤそもそも中学も高校も吹奏楽部だったが、所詮は文化部。吹奏楽部は実質運動部なんて言われるが、特に吹奏楽部の中でも緩い方で体力なんぞつくはずもない。
ㅤモンスターの足音が近い。スピードも落ちてきている。体力も限界。
ㅤ終わった……人生。
ㅤガサッッッ!!!
ㅤバタッ。
ㅤ「はぁ…………はぁ……。」
ㅤ「あれ?生き………てる……?」
ㅤ眩しい。足音も聞こえない。空が見える。何より息をしてる。
ㅤどうやら森の茂みから、道……のような場所に出たらしい。リュックを傍らに、大の字で動けない。
ㅤ
ㅤ「もう、無理」
ㅤ意識がシャットダウンした。
ㅤ……。
ㅤ…………。
ㅤ「xxx.……ㅤxxxxxx」
ㅤ「うぅ……」
ㅤ何か聞こえる……。僕は……。
ㅤっ!!
ㅤ「ここは!?」
ㅤ飛び起きた。そういえば、得体の知れない怪物に追われて力尽きたような、尽きなかったような。
ㅤ「xxxx……?」
ㅤん……?目の前に女の子。かわいい。
ㅤじゃなくて!!
ㅤ「助けてくれてありがとうございますっ!」
ㅤここは勢いに任せてジャンピング土下座!これが誠意ってもんだ。いや、違うか……?
ㅤ「……??」
ㅤちらっと顔を上げると、首を傾げる少女。なぜだ!ジャンピング土下座は世界共通の謝罪ではないのか!?
ㅤいや……待てよ。ここは世界を超えた世界。土下座の文化がないのか……?
ㅤ言葉が通じない時は、なんとか表現するしかない。外国に行った時はジェスチャーでなんとかなるって、誰かが言ってた。
ㅤゴソゴソ――――――
ㅤ見捨てようとしたカバンがここで役に立つとは。ノートとペンを取り出した。絵は下手だが、ここまでの経緯を絵にしてみた。
ㅤエスカレーターはあるかわからない世界線。目が醒めたら森の中にいて、モンスターに襲われた様子を限りなくゼロに等しい絵心で伝えようとがんばった。
ㅤ「……。」
ㅤペンとノートを取り出した瞬間に驚いたような表情をしていた彼女は、絵を描き始めた僕を食い入るように見ていた。
「ふぅ……」
ㅤまぁ、ド下手だがかなり善戦した方だろう。マジで下手だけど。この絵を見た彼女はどう反応するだろう。
ㅤ――――――ギュッ
ㅤ暖かい。なんか前が見えない。抱きしめられているのか……。泣きそう。実は怖かった。
ㅤでも泣かなかった。少女の前で大学生になった男が泣くのはかっこ悪いから。それに勇気をもらったから。
ㅤ少女は身体を離して、全てを理解したかのように優しい眼差しで僕を見て、口を開いた。
ㅤ「名前…………エスプル。よろしく…………ね」
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