第9話 サキュバスを腹上死させた魔王
俺がサキュバスを腹上死させたという情報はある一部で話題になっていたそうだ。それはなぜかと言うと、サキュバスが腹上死させたという事例は腐るほどあったのだが、サキュバス自身が腹上死させられたという前例はどの世界にもなかったからだそうだ。
サキュバス曰く、普通は魔王だろうが勇者だろうが時間をかけていればいつかは殺すことが出来るんだとか。俺が相手をしたサキュバスも俺から精力を吸い取ろうと思っていたそうなのだが、予想外の反撃を受けてしまい、本来は出てくるはずのない雌の部分が出てしまったために自制心が聞かなくなって死んでしまったそうだ。俺もサキュバスを殺すつもりなんてのは無かったのだけれど、何らかの催淫効果で俺はいつも以上に激しくしてしまったのかもしれない。その結果、サキュバスは命を落とすことになってしまったというわけなのだ。
サキュバスもとりついた相手を早々に殺すことは無いそうなのだが、ついつい情熱的になってしまって予定よりも激しく燃え上がることがあると、その相手は死んでしまうことがあるそうだ。俺の前に相手をしていた魔王は見た目は俺よりも良かったそうなのだが、あっちの方の相性は良くなかったと愚痴を聞くこともあるのだが、それでも俺を相手にするよりはマシだと言われた。気持ちが良いのは圧倒的に俺とのエッチになるそうなのだが、また死ぬのはごめんだと言われてしまい、それは俺も反省すべき点なのである。
ただ、お互いになぜか歯止めが効かなくなって燃え上がったことがあれから五度ほどあったのだが、その全てでこのサキュバスは冥界へと落ちてしまった。その度に新しい命を手に入れて戻ってくるのだが、それも決して楽な事ではないそうだ。
ここ三か月くらいはサキュバスの相手をしていることもあって俺に挑んでくる勇者やインキュバスの相手をしていないのだけれど、相変わらず魔王城にはこの世ではまず味わえない快楽を俺に求めてやってくる女性が列をなしているのだ。
ちょうど出来上がったオモチャのサンプルを女性に差し上げているのだが、サンプルは耐久性に難があるのですぐに壊れてしまう。その為、使用した女性は何度となく魔王城へ通うことになるのだが、その列の中には何度か城の中で見たことがあるものや勇者の仲間の姿も見受けられるようになっていた。どんな人でも性欲はあるのだなと感じる出来事であった。
オモチャに関してはサンプルの見本を俺が作ってインキュバスがそれにフェロモンを注入してサンプルにし、それをサキュバスが試してから良さそうであれば希望者に試してもらうという形をとっているのだが、意外と大衆向けに作るというのが難しく、これだったら一人一人に合ったものを面談でもして作った方が確実だとは思うのだが、あいにくと俺にはそんな時間などないのだ。
なぜこんなことになってしまったのだろうと思っていたのだが、それはひとえにインキュバスのせいであるのだ。
こいつは自分から姿を見せない限り俺からは見ることが出来ないのだが、それをいいことに俺とサキュバスの営みを映像として記録しており、それをこの世界だけではなく他の次元の世界のインキュバス仲間にも送ってしまったそうなのだ。
そのお陰で俺の名声はそっち方面でものすごく高くなってしまっていたし、俺の技術を盗もうというインキュバスが尋ねてくることもあったそうだ。しかし、インキュバスには各自の担当エリアに無許可で入ることが出来ないという不可侵条約が締結されているそうだ。もちろん、俺の近くにいるインキュバスは他のインキュバスをそのエリアに入れるような事はしない。だが、そのインキュバスの支配下にある女性がオモチャを貰いに来ることまでは禁じていないそうだ。
インキュバスが手を入れたオモチャを使う事によってインキュバスに多少の分け前がもらえているという事もあるが、映像を見て興奮しただけでも同じような効果があるという事も聞いてこいつはタダでは何もしないやつなんだなと思っていた。
サキュバスが何度も腹上死させられているという話を聞いた他のサキュバスたちが予習復習にでもやってくるのかと身構えていたのだが、俺にコンタクトを取ってくるサキュバスは私も腹上死してみたいという頭のおかしいことを言ってくるやつばかりだったりするのだ。
そんなに死にたいものなのかと考えてみたのだが、死んでしまうほど気持ちいいなら俺も一度くらいは体験してみたいと思ってみたりもした。もしも、本当に俺が死ぬとしたらこの方法が一番確実ではないかと思った。しかし、それはサキュバスが考える間もなく即答で否定してきた。
「アスモ様は確かに凄いと思いますよ。アスモ様に相手をしてもらった事を思い出すと、私はもう布団に入るのすら怖く感じてしまいます。死ぬのが怖いんじゃないんです、死んでしまったら気持ち良い事ができなくなるという恐れがあるんです。思い出したらまたして欲しくなってきたんですけど、お願いしてもいいですか?」
「別に俺は構わんが、またお前は死ぬことになるんだぞ?」
「死ぬくらいは平気なんですけど、魂のストックもそろそろ無くなりそうなんで、新しく仕入れてこようと思ってます。でも、最近は以前より警戒心が薄れているような気がするんですよね。これって、魔王アスモ様の威光によるものなんですかね?」
「それは違うぜ。どっちかと言えば、サキュバスお前のお陰だな」
「ねえインキュバス、私のお陰ってどういうこと?」
「どういう事って、お前と魔王アスモがやってる姿をばっちり収めて世界中に公表しちゃったからな。世界って言ってもこの世界だけじゃないぜ、俺達が元々いた世界や他の次元にある世界にもバラまいてるからな。お前もそのお陰で多少はおこぼれを貰ってると思うんだが、それでも足りないっていうのか?」
「何それ、私とアスモ様の営みを撮影して全世界に向けてお披露目してくれたってコト?」
「ああ、そう言う事だ。何か文句あるか?」
「ないない、むしろ感謝だよ。私は何のとりえもないサキュバスだと思ってたけど、あんたのお陰で世界でも有数のサキュバスになれたとは思うよ。ただ、それに関しては全然実感ないんだけどね」
「ねえ、その映像を見たいんだけど、どこで見れるわけ?」
「世界中どこでも見れるぜ。俺のネットワークに入ってくれば誰でも無料で見れるんだけど、お前は自分の姿を見てショックを受けそうだから見ない方がいいんじゃないかな」
「そんなにひどい姿なの?」
「ああ、またの間だけじゃなく、口からも鼻からも目からもあり得ないくらいの量の液体を飛ばしているんだぜ。見てるだけでも本当に気持ちいいんだろうなって思うくらいだもんな。それに、今はまだ音声を拾えてないんで無音なんだが、不思議とお前が何を言ってるかわかるようになってくるんだ。それはどの世界でも一緒の認識だそうだがね。それと、こいつはお前じゃなくてアスモに伝えとくべきことだと思うんだが、聞いてもらってもいいかな?」
「ああ、もちろん。何の話だ?」
「近いうちにな、お前を襲いに来るやつがこの世界に入ろうと順番待ちをしているそうだ。今は進入ゲートが一つしかないんで大丈夫だと思うけど、別の世界の勇者か魔王にそのゲートを通らなくてもここに来れるやつがいるかもしれないんだ。やってくるやつらはお前の作ったオモチャやお前のスキルを手に入れようとしてくるんだと思うよ。お前を殺せばどっちも手に入ると思ってるんだろうね」
「俺はこんな退屈な世界なら死んでやり直してもいいかなって思うんだけど、どうせ死ねないのは分かっているからな。俺も腹上死なら可能性はありそうなんだけど、何人も相手にしてやればうまく行くもんかな?」
「俺の勝手な予想ではあるが、お前がそんな事で死ぬ可能性は無いと思うぜ。お前はやっぱり気付いてないみたいだけど、何時もお前の事は監視されているんだぜ。そんなお前が死にそうになったらみんな全力で手を差し伸べると思うぜ。ま、そんな状況になることも無いと思うし、その前に相手が死んじゃってるだろうね」
「わずかな希望も露と消えたわけだな」
「私からも一つだけ言わせてもらいたいんだけど、魔王城に来ていた一般人がみんな退去させられてアスモ様の配下の魔物たちもあらかた片付けられちゃったみたいだよ。他の世界の勇者がアスモ様の命を求めてやってきたみたい。命じゃなくて体が目的かも知れないけどね」
俺はこれから起こることが何となく想像できていたのだが、俺を殺したところでサキュバスを腹上死させるような技術も能力も手に入らないという事を誰も気付いていないというのはかなり衝撃的な出来事だった。
俺の戦いはこれから始まるのだ!!
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