第5話
神庭と武田は樋口を呼び止めて、事のあらましを彼に説明した。そして今、遠藤以外の全員が鈴木が物音が聞こえたと言っている部屋のドア前に集まった。鈴木の隣の部屋、それは本来死んでしまった佐藤に割り当てられた部屋だ。
「おい。遠藤、中にいるのか?」
神庭が扉の前から呼びかけるが応答はない。緊張の面持ちで神庭は部員の面々に視線を合わせ、ドアを開けるぞという意思表示を目で送った。誰かが生唾を飲んだ音が聞こえた。そしてドアノブがゆっくりと捻られる。
「む。開かない。施錠されているな」
「そういえば結構あいつマメでしたからね。意外と」
「ということは鍵は佐藤のポケットの中になるのか」
「どうしますか?」
遠藤が神庭の顔色を窺った。
「死体をまさぐることになる。正直、あまり気が進まないし、やりたくはない」
「私、嫌ですよこのままなんて!!あんなことがあった後で、ただでさえ神経が昂っているというのに、あの何かが割れるような音がもしガラス窓を割った音だったらどうするんですか!!」
「それは無いと思うぜ。なんせここは2階だ。外から梯子でもかけない限りは窓からの侵入はできないだろうよ」
樋口は鈴木の主張を真っ向から否定した。鈴木は樋口の人を小馬鹿にしたような物の言い方にムッときたのか相手が先輩であることを忘れたかのように樋口の発言に食らいつく。
「そんなの樋口先輩が思いもつかない方法で窓から誰かが進入してきたのかもしれないじゃないですか。失礼を承知で言わせてもらいますが樋口先輩はあまり頭が良さそうに見えないですし。とにかく音がしたのは間違いないんです。それも自然とでは起こりえない何かが割れる音ですよ。そんな音を聞かされて私の気持ちを汲もうとは思わないんですか」
「なんだと!女だからって優しくしてやったら調子に……」
「よせ樋口。鈴木の言う通りだ。それに私だって音の正体は気になる。なぁ鈴木、それ以降、何か隣から物音が聞こえたりしたか?ドアを開ける音とか」
「いいえ。聞こえませんでした」
「うーむ。これは確かに確認しないと気味が悪いな。幸いなことに佐藤の死体の場所はここから5分と比較的近い場所だし、何しろ今は雪も降っていないようじゃないか。パッと行ってすぐ帰ってくるさ」
「待ってください。俺もついていきます」
立ち去っていく神庭を呼び止めたのは武田だった。彼は幼いころから中学生まで地元の道場で少林拳法を習っていたらしく武道の心得があった。その自負から武田は自分を護衛につけた方が良いのではないかと暗に言っていることを悟ると神庭は、
「心配いらんよ。私はワンダーフォーゲル部の部長だぞ。山のことは私に任せておけばいい」
とニヤリと破顔してみせた。
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