第4話
※2人目の死者。
佐藤の死にショックを受けた面持ちの部員らは大広間に集まっていた。誰も一言も話すことはなくなり、ただ時間だけが悪戯に過ぎていく。緊張の糸を張り巡らされままの室内は窓の外に広がる銀景色と同じく、時間さえも氷漬けにされたように感じる。
「俺、部屋に戻りますね……1人になりたい気分なんで……」
最初に沈黙を破ったのは武田だった。きっとこの場を支配し続けている重い沈黙に耐えかねたのだろう。
俯いたままの彼は誰とも目を合わせようとせず大広間を出て行く。それに釣られるように他の部員たちも大広間内に漂う鈍重な雰囲気から逃れようと、1人また1人と無言のままにこの場を後にしていき最終的には全員はそれぞれに割り当てられた自室へと戻っていった。
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そうしておよそ5時間が経過した頃。隣の部屋から何かが割れるような音がしたという鈴木の訴えにより事態は急転する。
報告を受けた神庭はすぐに部員の点呼を取ることになった。それぞれの部屋のドアをノックして回る。武田は部屋にいたが樋口と遠藤の部屋からは返事がなくどうやら部屋を留守にしているようだった。
「樋口と遠藤はどこにいったか知っているか?」
「遠藤先輩は知らないですけど、俺は今から樋口先輩と風呂に入りに行く予定ですが……」
神庭と武田の2人は亡くなってしまった佐藤の部屋の前に立ち尽くし話し込んでいた。既に武田は動きやすいラフな部屋着に着替えており、その手には歯磨き粉とボディーソープなどのトラベルセットが握られていることからこれから浴場へと向かおうとしていたのだろう。身体に纏わりついてしまった死の匂いを武田は必死に洗い流そうとしているのかもしれないなと神庭は思った。
「さっき樋口の部屋のドアをノックしたが反応が無かったぞ」
「マジですか?1人であの暗い廊下を通って風呂に行くのが怖いから樋口先輩を誘ったんですけど……まさか先に風呂場に向かったんでしょうか。」
「なるほど。アイツ相変わらず子供のような悪戯ばかり思いつくな」
「どういうことです?」
「あれだよ。あれ」
神庭が指差した方向を見ると浴室へ続く廊下の洋箪笥の陰に身を屈めている樋口の姿があった。照明が壊れているのを良いことに物陰から突然、飛び出して武田を脅かしてやろうという魂胆が見え見えだった。
「人が1人死んでるというのによくああいうことできますよね」
「そう言うなよ。デリカシーはないかもしれないが、これもあいつなりの優しさなんだ。少しでもお前の気が紛れるようにとあいつは道化を演じているのさ」
「俺にはとてもそうは思えませんけどねぇ」
「お前のことを大分、好いているみたいじゃないか。身長も双子のように低いもんだから向こうが勝手にお前に対してシンパシーでも抱いているのかもしれんけどな」
「身長のことは言わないで下さいよ……結構気にしてるんですから」
神庭と武田が話し込んでいる様子を湯上りで髪がまだ濡れている鈴木は少し距離を置いた場所から何故かこちらに訝し気な視線を向けている。まるで今回の騒音も先輩たちの中の誰かの仕業でしょ?と言いたげに目を糸のように細めていた。
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