第6講 あの有名な言葉はCSを表してはいない
皆様は「お客様は神様です」という言葉をご存じでしょうか。
このお言葉はある有名芸能人の方がおっしゃられたといわれております。
そのお言葉の本意は、決して、お客様を崇め奉り、絶対服従をすべしという意味ではございません。
この話は結構有名なので、ご存じの方も多いと思われますが、現代「商社会」においては、発信者の意図とは裏腹な全く違った意味として使用されていることがあります。
このお言葉と、CS(顧客満足)という考え方がとても相性が良かったため、違った意味に誤用されてしまったというとても悲しい出来事です。
本来、発信者さまの意図は、
「私が芸事をご披露する際には、あたかも神仏の御前にて披露するかのような、神聖な気持ちで行っております」
という意味だったそうです。
決して、「お客様=神様」という論理ではないのです。
あくまでも、提供する側の自発的な感情、もしくは心持ちを指しているものであって、受給者側がそのような扱いを求めていいものではないのです。
私も商売をしていて、何度もこの言葉を盾にいわゆるクレームを受けたことがありますが、そのたびに、
「私は神様を相手に商売はできません。お客様が神様であられるなら、どうぞ神様を相手にされているお店へいらしてください」
と言ったものです。
まあ、通じる方の方が少なかったですけどね。
ともあれ、こういった「お客様第一主義」的な教育をなさる職場が増えていくと、ひとの心は疲弊していきます。
初めのころはよかったのです。「あのお店は接客がいい」とか、「気持ちのいい応対だった」などという声でとどまっておけば、特に問題のないレベルのことだったのかもしれません。
ところがそうはなりませんでした。
各企業や経営陣は従業員様方にさらなる奉仕の心を要求していきます。
なぜか?
みんなやり始めれば、差が生まれなくなっていくのは当たり前のことです。
そうやって、どんどんエスカレートしていきました。
これまで以上に「気配り・心配り」や、「丁寧な言葉遣い」、「丁重な姿勢」、そして「従順な態度」が求められるようになります。
そうしているうちに、従業員として働いている間は、
「お客様には逆らってはいけない、意見をしてはいけない、拒否してはいけない」のだと、知らず知らずのうちに擦り込まれていきました。
さて、ここで問題です。この後何が起こるでしょうか?
逆転の発想です。
あくまでも従業員としてサービス提供側としての立場の時はそのような態度で振舞うべきであるという考えは、返せば、客という立場なら当然そのような扱いをされるべきだ、という考え方に直結します。
これが、お客様自身が「お客様は神様だろう」という言葉を店員に投げつける事象に集約されています。
ここに、「心の提供」の影響が現れているのです。
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