第4講 「商」社会全体で起きている同調(1)

 ここで、「あきない」を通して人と人が関連し合うつながりのことを「商社会」という言葉でひとまとめにしておこうと思います。

 こういう括り言葉はいろいろなズレを生じさせるため再定義したうえで話を進めます。

 

 少なからず皆様はこの「商社会」と一日のうちいくらかは触れていることと思います。

 仕事、買い物、通院、通勤、余暇など、あらゆる場面において私たちの周囲を取り巻いているからです。


 そして、それに取り巻かれているため知らず知らずのうちにその中へ引き込まれてしまう傾向があります。

 これが、商社会全体で起きる「同調」です。


 例えば、スーパーのレジとコンビニのレジの例をあげましょう。


 スーパーのレジは10台以上も並んでいるようなところもありますね。ですが大抵はそのうちの数台しか開いていないでしょう。店員さんがいないわけでもなく、売り場にはほかにも店員さんは大勢います。なのに、皆さまは基本的には開いているレジに並んでお待ちになると思います。

 間違っても、品出しをしている店員さんに、

「早くレジ打ちなさいよ!」

とは、言わないでしょう。


 ところがコンビニだとどうでしょうか?


 コンビニのレジは大抵2台か3台ほどです。店員は二人か三人というところでしょうか。ですが、レジに2組か3組ぐらい並んだ時点で、あたりをきょろきょろソワソワしだすお客様がおられます。店員を探しているんでしょう。そして見つけるや否や、

「レジ打ってほしいんですけど?」

と、声をかけておられる、そんな状況を目にしたことはありませんか?

 おそらく一度ならず目撃されていると思います。


 どうしてこうなるのか?


 それは、お客様たちのせいではありません。


 これまでのコンビニの経営者側あるいは本部側がそうさせたのです。


 ここに「商社会」における「同調」があります。


 詳しく、こうなった経緯を説明いたします。


 ご存じの通り、コンビニエンスストアはスーパーの小型化したものから始まりました。そもそも「コンビニエント=便利な」「ストア=お店」は、当時の大型スーパーの乱立後、それを小型化することで皆様の生活により近いなんでもおいている小さいスーパーをイメージしたものと思われます。小さく、近いから「便利」というわけですね。

 

 ですので、そのノウハウはほぼすべてスーパーから持ってきたものだったと推測できます。

 レジの複数化など、その最たるものでしょう。

 それまで、小型店舗においてレジが複数あることなんてなかったのですから、殊に大きな影響を受けた証と言えるのではないでしょうか。


 ところがスーパーとはおおきな「違い」があったのです。


 それは、「お客様との距離」でした。

 これは物理的な距離もそうなのですが、より影響を与えたのは精神的な距離です。近所の商店の形態でありながら、生活必需品はとにかくだいたいそろっていて、さらに遅い時間まで開いている。まさしく、「あいててよかった」と思わせるコンビニエンスストアは主婦や残業の多い若いサラリーマンたちにとって心強い味方となったでしょう。

 そして、そこにはいつも見る顔なじみの店員さん。精神的な距離がぐっと縮まるのは容易に想像できるものですし、むしろコンビニエンスストア側はこれをひとつの「狙い」としていたことも事実でしょう。

 そして、さらに店側は距離を近づけていきます。

 スーパーではできなかった、「心配り」が小さい面積の店舗であるがゆえに可能となったのです。


 それは、

「迅速な接客」

でした。


 各コンビニはこぞって、レジの操作の簡略化、迅速化を図ってゆきます。そこにはまるで「お客様を待たせる店は最低の店だ」とでも言わんばかりの猛烈な熱意がありました。

 この当時のコンビニ業界の合言葉は、「レジでお客様を待たせない」、「迅速にレジ対応を」、「作業中でも手を止めてレジ打ち優先」などではなかったかと思います。

 そしてこれは、日本にコンビニが誕生してから40年以上も「当然のこと」として今も定着したままです。


 これがコンビニを取り巻く「商社会」での「同調」を招きます。


 まずはお店の経営サイドにこの「同調」が起きました。各コンビニ本部はひたすらにこの「レジ対応の迅速化」を徹底したことでしょう。そのための設備、そのためのレイアウト、そのための経営者教育。

 この結果、「そうあるべきだ」という店舗経営者(=コンビニオーナー)の育成が進んでゆき、今ではこれが「不文律」であるとさえ思わせることに成功しております。

 そしてそのコンビニオーナーが自店の従業員様方にこのことを徹底して教育していきました。

「お客様第一」「レジが一番」「お客様を待たせない」「品出しよりレジ対応」などなど、ことあるごとに、「何よりもお客様を優先して業務にあたるのが当たり前で正しい仕事の仕方なのだ」と教育されていきます。


 これが、すでに40年以上も続けられているのです。


 これがコンビニエンスストア界隈だけでとどまるわけがありませんよね。当時はコンビニは少数でしたが今は地域に最低でも1店舗はある世の中となりました。


 それが皆様の「商社会」に影響を与えることは想像に難くないでしょう。


 試しに自身の周りでコンビニエンスストアで働いたことのある人を考えてみてください。いったい何人の方を思い浮かべられますでしょうか。結構いるのではないでしょうか。


 そうして、コンビニの影響はその地域の「個人店舗」へと及ぼしてゆきます。各個人店舗は近隣にコンビニ出店と聞けば震え上がったことでしょう。これでもう、ウチのお店は終わりだなと思われた経営者の方はとても多かったと思います。



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