第3講 協調と同調
それでは協調と同調、何が違うのでしょうか。
私見を述べさせていただくと、「協調」は互いに助け合い協力して事にあたること、「同調」は相手の行動・思想に合わせて行動すること、と言えると思います。
何が違うのでしょうか。
実は大きく違うのです。
協調の場合、互いに助け合うために、自分はどうするべきかと自身の行動につき自己で決定し行動を行います。
これに対して、同調は相手の思考・行動に合わせるため、自身の行動について自己で決定する必要がないのです。
つまり、そこには「自己決定(=心)の有無」という大きな違いがあります。
私たちは知らず知らずのうちに、同調する傾向があるということです。
自分はそうではない、と本当に言い切れるでしょうか。
すべての行動を自身で決定し、善悪や必要不必要を考慮に入れて、一緒に仕事をしていると、本当に言えるでしょうか。
一つ例を挙げましょう。
例えばあるコンビニ店での従業員さんたちと店主の会話だったとします。
店主「Aさん、いつもありがとう、頑張ってくれて助かりますよ」
Aさん「あ、いえ、仕事ですからしっかりやらせていただきます」
店主「そう言ってくれるととても助かります。あ、そうだ、そろそろAさんも慣れてきた頃でしょうから、ドリンク売り場の発注をお任せしたいと考えていますがどうでしょうか」
Aさん「あ、いえ、まだまだ私にはとても……」
店主「大丈夫ですよ。たいして難しく考える必要はありません。Bさんにもこの間、駄菓子売り場の発注をお任せしたところですが、とてもよくやってくれています。発注はいずれ覚えていただくてはならない仕事の一つですから、お願いしますね」
Aさん「私にできるでしょうか?」
店主「システムがしっかりできているので、どなたでもできるようになっていますから安心してください」
Aさん「わ、わかりました。これも仕事ですし、私やってみます」
よくある風景の一つだと思われます。
かくしてAさんは発注の仕事をやることになりました。
店主「これで、発注の方法はわかりましたね。意外と簡単でしょう?」
Aさん「はい。こんなに簡単だったなんてちょっと驚いています」
店主「でしょう。皆さん初めは難しそうだからという理由で尻込みされるんですが、やってみると意外と簡単なことに驚いておられます。時間もたいして取りませんしね」
Aさん「これなら私にもできそうです。自分が発注した商品がお店に並ぶなんて、ちょっとワクワクしてきました」
店主「そうですよ。新商品をいっぱいPRしてたくさんのお客様に喜んでいただきましょう」
Aさん「はい。頑張ります」
店主「あ、それと、発注は週3回ありますから、うまくシフト調整してやってくださいね。ドリンク売り場はお任せしますよ!」
Aさん「(このぐらいの時間なら大丈夫よね、休みの時でも誰かにお願いしたり、もし無理でも少しぐらいならお店に来ても問題ないし…)はい。仕事ですししっかり責任もってやります」
なんと、いい従業員さんでしょう。店主もこの方なら安心して任せそうですね。
ところが、それも長くは続かなかったようです。
Bさん「この間さぁ、Aさんがお休みの時ドリンクの発注頼まれちゃったのよ。そりゃね、たいして時間かからないわよ? でもねぇ、私だって駄菓子の発注担当してるんだし、ドリンクまでやってたらちょっと時間かかっちゃうじゃない? だから私は、誰かに頼まないで、自分でやるようにお休みでもちょっとお店来てやってるのよ?」
Cくん「あ、僕もそうですよ。だって、頼むの言いにくいじゃないですか? だったら自分でやった方が気が楽ですし。みんなそうやってやってるのに、その辺、Aさんは見てないんでしょうね」
これを聞いていたDさん、いい人なんですこのひと。
Dさん「Aさん、ちょっといい? この間BさんとCくんが話しているの聞いちゃったんだけど……」
Dさん「……ということなのよ。Aさんもちょっと気を付けた方がいいんじゃないかな? ぎくしゃくするのも困るでしょ?」
Aさん「……そんなことがあったんですか、私全然知らなくて……」
Dさん「私もアイス売り場の発注やってるけど、誰かに頼んだことはないわよ? だって、ほかの人も仕事もってるんだし、やっぱり、迷惑かけちゃうじゃない?」
Aさん「そうですね。私もこれからはそうしようと思います。Dさん、言ってくれてありがとうございます」
さて、このお話、皆さまはどうお感じになられたでしょうか。
一見すると、Aさんは「自分で相手に迷惑をかけないようにするために考えて人にお願いするのをやめる」という「自己決定」をしたようにも見えます。
ところが、よくよく考えてみると「みんなそうしているから、自分もそうしないといけないと思った」というようにも見えます。
どちらも同じ、「人に頼まず自分でやる」という結論には変わりないのですが。
これが「協調」と「同調」の差です。
そうなんです。一見するとまったく同じように見えるんです。
ところが、よくこの例を考えてみてください。このお店のAさん、Bさん、Cくん、Dさん、そして店主は本当に「協調」しているのでしょうか。
「協調」とは互いに助け合い協力して事にあたること、とはじめに定義いたしました。彼らは本当に協力し合っているでしょうか。
私の答えは言うまでもありません。
この事例は、ある一つの店舗内で起きたことでしたが、実は社会全体でもすでに起き始めているのです。
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