礼儀正しく道を通って行った霊の話
百鬼夜行とはよく聞く話であるが、それと似た話で
ある夜、娘が一人寝つかれずいると、何やらざわざわと耳もとがひどくさわがしい。誰もそんな夜中に通るようなところでもない。
娘は、ともかく幻のようなものと思い、ねようとした。だが、今度はいよいよはっきりと人の足音がぞろぞろと行列のように続くのを聞いた。それも、ぞうりをひくような足音が、二、三十はするのである。娘は妙に、おそれ心地にとらわれ、いよいよその音は、はっきりとしたものとなり、しまいには、人のそれぞれ話し声、その内容まではっきりと聞こえてきたのである。その二、三十人の者はみんな女で、女郎や遊び女のようなことが知れた。もう、まったくさわがしく、娘が目を開くと、自分の目の前にいつしか、夜道が出来ており、女達が、それぞれ、色や柄の違う長襦伴を着て、べらべらと話しながら歩いているのであった。女達は、こんな話を互いにしておった。
「どうせ私達が家へ帰っても、誰にも喜こんでもらえないやっかいものだし、帰りたくない」というのであった。すると、その女達をひきつれているらしい、目上の女が現われ、
「やっと神様が、私達の道をつくって下すったし、その話もつけて下すったのだから、安心して帰りましょう」と悟しておるのである。そうやって、この女達は、その道を通り、夜道の中へ入つて去つた。
それから、又数分すると、又、遠くの方から、ざわざわと、今度は馬の蹄の音まで入れて、いっそうさわがしい人の群が近づいて来た。見ると、今度は神社のようなところを通っておる。その服装は、まるで鎌倉や平安の時代のそれであった。その中で、一人がやはり、その一団の群を整理し、名を確かめたり、列を進ませたりしておる。娘は、あまりの騒々しさに、思いきって声を出し、「うるさい!」と言った。すると、その一人の男とも女ともつかぬ者が、ふりかえり言うのであった。
「いや、いや、実に申し分けなく思っておるが、もうしばらくのしんぼうじゃ、がまんして下されい。我等、皆、御霊入れに行く者共、お前はその子孫によって、ここを通らぬわけには、いかぬのじゃ、ゆるされい」と、そう言う間にも、この者は、列の者を采配しておった。「これ、これ、そこの者、その宮には入ってはならぬ。こっちじゃ、ここへまいれ。お前の幼年の頃の名を申されてみよ。おお、確かに、この家の血筋の者じゃ、さあ、この道を通られい。これ、これ、そこの馬はよけよ、馬のことは、ここに書かれておらぬ。あちらの舎へおきゆけ!さあ、お前はこちらへ」などと、それは忙がしくさばいておるのである。
娘がもう一度「さわがしい!」と言うと、「これ、これ、お前達少し静かに通らぬか、これこれ、そこの者、しゃべるでない。」と悟すのであった。そして一団を全部通すと、まわりを見回し、「ふむ、これで私のあずかり申した者は皆通った様じゃ、それでは娘、私もここを通るが、今夜一夜のことじゃ、しんぼうせられい」と言って、堂々と、一礼をして闇に去ったのである。
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