ルルのお墓
尾八原ジュージ
ともだち
ルルがともだち作りにこだわっていた理由を、あたしは彼女のお葬式で知ることになった。十代最後の春に喉を切って自殺したルルは、自分の体を分割して親しいひとに植え込む、いわゆる移植葬ってやつをやりたかったらしい。
それが小さい頃からの彼女の夢だったんだって、ルルのお母さんが泣きながら話している。その後ろにルルの大きな大きな遺影が、花に囲まれて笑っていた。この笑顔で目の中を覗かれるとあたしは心臓が止まりそうだった。ルルは天使みたいな女の子だった。明るくて、軽やかで、いい匂いがして、笑うと水晶みたいな声がきらきら響いた。
「おともだちのなかに、娘の移植葬にご協力いただける方はいらっしゃいませんか」
「やりたいです」
あたしはいの一番に立ち上がった。その後からほかの子たちが次から次へと、わたしもわたしもと手を挙げた。
こうして、ルルが大事にしていたともだち111人で、ルルの体を分けることになった。最初に選ぶ権利をもらったあたしは、迷いに迷って右手の小指をもらった。小さいけれど服を着るときに邪魔にならないし、いつでも目に入る。あたしの右手は六本指になり、小指の脇から生えたルルの指は一本だけほっそりとしてまっすぐで、思ってもみないときにピクピクと動くのが愛おしい。これがルルの小さな墓標、つまりあたしがルルのお墓なのだ。
こんなふうにあたしたちは、みんな彼女のお墓になって、満ち足りた顔で病院を出ていく。
「きっとこんな光景が見たくて、ルルは移植葬を希望したんだね」
あたしの隣でヤヨコが呟いた。ヤヨコもルルのともだちだ。ほっぺたに埋め込まれたルルの眼球が、ヤヨコの皮膚でできたまぶたに守られて、ゆっくりと動いていた。
「そうだね」
「それに私、お姉ちゃんたちも一緒だから。にぎやかでいいと思うんだ」
ヤヨコはそう言って、自分の耳の裏に埋め込んだもうひとつの耳を見せてくれた。背中には、おばあさんから受け継いだひいおばあさんの掌が埋まっているらしい。ヤヨコはルルだけでなく、自分のお姉さんやひいおばあさんのお墓でもあるのだ。
この先も、別の誰かがヤヨコをお墓にするのかもしれない。それも悪くないけど、あたしは他のひとの移植葬はたぶんやらないだろうなと思う。あたしはルルだけのお墓でいたい。
残念ながら、ルルの声帯だけはぱっくり切れてしまってだめだった。声帯が生きていたら、あたしは絶対にそれを選んだだろうに。でも、あの声だけはルルが天国に持っていっちゃったのだ。それがとても寂しいなと思った。
よく晴れた日の午後だった。家に向かって歩いているうちに麻酔が切れて、右手がじんじんと痛み始めた。あたしは右手を押さえながら、いつか消えてしまうこの痛みをずっと覚えていたいと思った。
ルルのお墓 尾八原ジュージ @zi-yon
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