第4話

4月21日(土)

寮の引っ越しは何故か樹も一緒に引っ越した。

「いやいや、気分転換気分転換」

「なんだそりゃ」

寮長の道夫さんが、「コロナがなきゃドーンとお祝いしてんだが、まあいい、あと、樹くぅん、彼女いるなら、先に言いなさぁい?」

気持ち悪い話し方だな、と素直に思った。

「後天性性逆症だけどさ、実は、遺伝の関係もあるらしいんだ」と樹。

「母さんが後天性性逆症なんだよ」と言って、「だから俺にも性転換する可能性があるんだよなあ」と遠い目をした樹。

確かに、男っぽい俺が性転換するよりかはよっぽど、撫で肩な樹のほうが見た目、女の子になりそうである。

「麻友にも一応その旨は伝えてあって、いつでも性転換したら別れるか別れないかの相談はしてあったんだ」

「あー、だから下着買うときとかもあんなに積極的だったのか」

「そうそう」


尚更だが、日記書いてて、すらすら書けるようになった気がする。

なんでだろうか?


4月22日(日)

引っ越したあと、両隣に引っ越し蕎麦を渡しに行った。

右となりは、副土健太(ふくどけんた)という建築科の学生で、几帳面そうなメガネ。

左となりは、松葉金太郎(まつばきんたろう)、音楽科の学生、ピアニストになりたいらしい。

あと、寮母の日下峰子(くさかみねこ)さんは、「娘がその後天性性逆症で、男性になったわよ」との事。

男性が女性になるのが八割で、女性が男性になるのは二割で、珍しい事柄らしい。

「たまに野菜届けてくれるから会ったほうがいいわね」と寮母さん。


松葉さんに会って、「今度の演奏会に参加したら?」と言われたので、参加することにした。


4月21日(月)

飲み会に参加していた。やばい、目でめやしに、貧血おぎ、さぶい。


4月22日(火)

頭が痛い、飲みすぎて、てか、昨日めやしとかおぎ、って何?


「樹起きろ」と珍しいが、樹が直ぐに起きてこなかった。

そして、起こしたら、女になっていた。

「ふぁー」と、しばらく、樹が、物言わぬ貝になっていた。

とりあえず譜久村先生に見せたら、「そうそう本来ならこうなるんだよ、君は本当に珍しいんだと、うん十回も言ったかいがあるような無いような」とぶつぶつ呟いていた。

「麻友に別れを告げてくる」なんて言って電話を持って行ったが、また戻ったころ、メソメソポロポロと涙をこぼしていた。

「たとえ、誰に言われようと、麻友はあんたが好きで付き合ってんだ、別れるきはないって…」とどうやら、電話の向こう側もメソメソポロポロ状態らしい。


あと、俺は胸に肉が行ったが、樹は、どちらかと言えば、お尻の方に肉が行ったようだ。

「人によっては、筋肉の付く位置が違うんだ、むしろ君らのような成功例は少ないんだ誇りを持ちなさい」と叱られた。

あと、麻友さんが、寮の部屋の前で泣き腫らした顔をしていた。

「ごめん」と樹がいうと、「ん、だいじょーぶ」と麻友さん。甘い空間が広がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る