第13話 私なりの素直


 カーテンから漏れる朝日。目が覚めると、隣には手を繋いだまますやすやと眠る長閑さんがいた。

 なんだか変な感覚で、でも……嫌じゃない。そっと手を離すと、もぞもぞと動き始めた長閑さん。


「……ふふっ、アンナさんだ」

「他に誰がいるの?」

「アンナさん、おはよう♪」

「…………おはよ」


 顔を洗って軽くストレッチをして、昨日のカレーを温める。

 市販のカレールウ、レシピ通りに作っただけなのに……やけに美味しく感じてしまう。 


「アンナさん、カレー美味しいね」

「……そうね」


 それから、美術部の長閑さんにデッサンを習った。鉛筆一つで立体的に美しく目の前の林檎を描く長閑さん。私は中々上手く描けなくて……小さなスケッチブック一杯に描かれた林檎を見て、二人して笑ってしまった。

 お昼ご飯は余ったカレーでカレーうどんを作った。


 空っぽになった鍋。シンクに置かれた二つの丼ぶり。並んだ歯ブラシ、敷きっぱなしの布団。

 

「……アンナさん、沢山沢山……楽しかったね。ありがとう。その……また休み明け学校でね」

「……うん、気をつけて帰って」


 大きなダッフルバッグを両肩に背負い、玄関前でお辞儀する長閑さん。もっと言わなきゃいけないことがあるのに……素っ気なくなってしまう。

 玄関ドアが閉まり私の部屋に戻ると…………急に、この部屋が広く感じてしまった。

 机の上に置かれた林檎を眺め、ベッドではなく敷きっぱなしにした布団に寝転んだ。

 長閑さんの匂いがする。


「…………なんでもっと素直になれないんだろう」


 部屋の片隅におかれた黄色いレジ袋を見つめ……その中に入っていた物を思い出した。

 堪らず、思わず走り出し、靴を履き玄関ドアを開けると……そこには長閑さんが立っていた。


「の、長閑さん……どうしてここにいるの?」

「その……もう一泊させてもらえないかなって思って……どうでしょうか?」

「…………いいけど」

「ふふっ、嬉しい。アンナさんは何処かお出かけする予定だったの?」


 理由なんていくらでも取り繕うことは出来るけど……でも、これが私なりの素直。


「た、たこ焼き器使ってなかったから。使うなら……い、一緒がいいでしょ…………」

「うん! ふふっ、なんだか急にお腹空いてきちゃった。アンナさん、食材買いに行こう?」

「ちょ、ちょっと長閑さん──」


 意気揚々とした長閑さんに手を引かれ外へ出た。多分だけど……私と同じ気持ちなんだと思う。

 少し素直になり、その手を握り返した。

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アンナは長閑と触れ合いたい @pu8

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