第12話 しりとりの先に
家に戻り、買ってきたスウェットを洗濯して乾燥機へ入れた。店に並んでいた物をそのまま使うのは抵抗あるし……でも長閑さんは気にしないって言っていた。
「カレーでいいよね? 私準備するから長閑さん寛いでて」
「ふふっ、私も一緒に作るよ。いつも家で使ってるエプロンも持ってきたし」
そう言って纏うエプロン。ふわりと流れてくる長閑さんの匂い。私の家なのに……変な感じ。
準備をしていると、長閑さんは涙を流しながら玉葱を切っていた。
「ちょ、ちょっと……冷蔵庫に冷やしてある玉葱があるからそっち使ってって言ったでしょ?」
「そ、そうだっけ? ごめんなさい、アンナさんとお料理出来るのが嬉しくて……話聞いてなかったみたい」
そう言って涙を拭う長閑さんの頬は赤く染まっていた。胸の奥が変な感じ。玉葱のせいかな……こっちまで顔が熱くなってきた。
衛生的にもどうかと思うのでハンカチを渡す。
「これ使って」
「ありがとう…………ふふっ、凄いアンナさんの匂いがする」
「へ、変なこと言わないでよ……」
いつも一人のキッチン。パパとママが帰ってきても、外食か私が作ってあげるから……だから……
「まぁ……私も……ちょっと嬉しいけど……」
「ホントに!? 迷惑だったかなって思ってたから……ふふっ、嬉しいな」
「……他の人、家に入れるのは確かに迷惑だけど」
そう言うと、困った顔で狼狽える長閑さん。
それがなんだか可笑しくて……鼻で笑ってしまう。
「……友達は別よ?」
「…………ふへへ……ごめんなさい、変な笑い方になっちゃう」
いつもと少し違うその笑顔も、私の調子を狂わせてくる。私らしさっていうのが何なのか分からなくなってしまう程……
「取り敢えずカレー出来たし、御飯炊けるまで時間あるから……長閑さん、先にシャワー行ったら?」
「えっ!? 一緒にお風呂入らないの!?」
「は、入らないから!!」
大きな鞄から大きな水鉄砲を二つ取り出して私に見せてくるけれど……一緒に入るなんて、そんなの結婚しても恥ずかしいだろうし……誰かに肌を見せるなんて…………でももしこれがプールに行くとかだったら……まぁ友達同士で行くのが普通だろうし……っていうかそんなに涙目で見られても……どうするのが正解なの?ならプールに入る感覚で水着を着れば………………
「……って違う! さ、流石にお風呂は無理!」
別々にシャワーを浴びて、乾きたてのスウェットを着て……長閑さんは嬉しそうにしてたし、カレーは美味しくて、ボードゲームは楽しかった。
写真を沢山撮って、パソコンでパパとママに送った。ポラロイドで撮った写真は、私の部屋に飾る初めての私以外の写真。
友達とこうして過ごすなんて初めてで……楽しかった。
なのに……胸の奥がつかえている。
「ホントに私がベッド使っていいの?」
「気にしないで」
「ふふっ、同じ部屋で寝るなんて不思議だね」
「……そうね」
自分の家に、部屋に誰かを呼べる……そんな気心知れた友人なんて一人いればいいって思ってた。
人に対して優劣序列を作るなんて嫌だし……
だから長閑さんは私にとって……特別な友人。
「なんだか興奮して寝れなさそう。ねぇねぇ、しりとりしない?」
「……りんご」
「ごまだんご♪」
だから……あなたの望みを拒んだことを後悔してる。
勿論お風呂なんて一緒に入れないけど……でも友達だから……なにかしてあげたいって思う。
調子が狂うけど……でも、それがあなたといる時の私なんだと思う。
「えーっとね……いしつぶて♪」
「…………」
あなたが喜んでくれることを考える時間も……別に嫌いじゃないから。
「アンナさん、次は“て”だよ」
「……手、繋いで寝る?」
「る、かぁ……うーん…………えっ!? アンナさん、今なんて……」
「二度も言わないし。お休み」
「つ、繋ぐ!! 私もそっちの布団に行っていい?」
「だ、駄目に決まってるでしょ!? ベッドから手伸ばしなさいよ」
「ふふっ、イヤでーす。お邪魔するね♪」
「ちょ、ちょっと長閑さん……」
一緒に寝るなんて、もっと歳を重ねて先を見据えた恋人同士にでもならなければ嫌なのに……
でも……
「ふふっ、お泊りって感じがして楽しいね♪」
「…………そうね。お休み」
「うん。お休みなさい、アンナさん」
そんな顔されたら、嫌な訳ないじゃない。
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