第11話 たこ焼き焼き器
俗なお店だと思ってた。ガラの悪い人達をよく見かけるし、皆煙草を吸ってそうだし。
お店の中に入ってもやっぱりイメージ通りで印象は変わらない。
香水の匂いはキツイし変な曲が中国語で延々と流れてるし、何屋なのか分からないくらい分けの分からない物が大量に売っている。
でも長閑さんが楽しそうにしてるから良いのかなって考えてしまう私に思わず鼻で笑ってしまう。ホント、馬鹿らしい。
「アンナさん、なにか面白いものでもあったの?」
「……そうね。なんだか可笑しくて」
歩幅の小さい長閑さんが私よりも少し先を歩いているのは多分気持ちが高揚しているからなのだろう。
そんなに嬉しいのかな……
目当ての……多分スウェットを探しながら歩き回る。まぁホント、色々売ってるのね。
「たこ焼き焼き器見てるの? たこパ出来る……アンナさん?」
「ふふっ……ふふふっ……たこ焼き焼き器って……たこ焼き器でいいんじゃない?」
「そう……そうだね♪ ふふっ、変なの」
絶対に必要無いのに、たこ焼き器を手に取ってしまう。
初めて買った記念がこれか……
きっと、これを見るたびに長閑さんのたこ焼き焼き器を思い出して……可笑しくなって笑っちゃうんだろうな。
次第に売り場は変わっていき、スウェットが見えてきた。直接聞いた訳じゃないけど……お揃いで買いたい……んだよね?
お揃いなんてかなりの段階を踏まなきゃ……でも長閑さんは唯一というか……一番の友達……だし……うん、この落ち着いた無地のやつなら……
長閑さんは…………派手な朱色に水色のラインが入ったスウェットを眺めている。しかも上下セットなんだ……
「………………それが欲しいの?」
「ほ、欲しいとかじゃなくて……その……これア……何でもない!!」
「そ、そこまで言ったなら最後まで言ってよ!」
人前でこんなに大きな声出しちゃった……恥ずかしいし……ホント、調子狂っちゃう。
「わ、笑わない?」
「うん。約束する」
「…………この服、アンナさんの色。髪の毛と瞳が似てるでしょ? これ着たら私もアンナさんみたいに綺麗になれるかなって……ふふっ、そんなわけ無いのにね……ア、アンナさん?」
長閑さんの笑った顔にはいつも調子を狂わせられるけど……そんな愛想笑いは…………嫌だ。
何でも売ってるお店だから……こんな可笑しな色の組み合わせだって……
「わ、私はこれを買う。の、の、長閑さんの色!」
桜色にヘーゼルのラインが入ったスウェット。
声大きいし顔真っ赤だしサイアクだけど……でも……
「…………ふふっ。いいの?」
あなたはこの顔じゃなきゃ……
「こ、これでもある意味お揃いでしょ? ほら、レジ行くよ」
たこ焼き器とスウェット、照れ隠しにガム一つ。
相変わらず香水の匂いはキツイけど……来たときよりも、居心地は悪くなかった。
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