第9話 おかえりなさいアンナさん
「アンナさーん!!」
待ち合わせ場所のタコ公園。手を振りながらヒョコヒョコと小走りでこちらに向かってくる長閑さん。
制服じゃないのが何故か不思議な感じがするけど……ワンピースに重ねたニットのセーターは長閑さんらしくて…………って何でこんなにドキドキしてるんだろう……
「ハァハァ……お、お待たせでした! わぁ……アンナさん可愛い。モデルさんみたい」
「そう? 私なんかより長閑さんの方がよっぽど……」
「……ん? どうしたの?」
「な、なんでもない! っていうか何? その大荷物は……」
両肩にパンパンに物が詰まっているダッフルバッグを一つずつぶら下げている長閑さん。
その姿に思わず笑ってしまった。
「ふふっ、何泊する気なの?」
「あれもこれもって思ったらこんなになっちゃって……えっ? 連泊してもいいの!?」
「だ、駄目に決まってるでしょ!? ほら、一個持つから行くよ」
長閑さんは左利きだから、より重そうな左肩のバッグを持ち家へと向かう。
それにしても重すぎるし……その分長閑さんの気持ちが伝わってきて、何となく足取りは軽かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「すごーい。オートロックだ」
「私、一人でいることが殆どだから防犯対策ちゃんとしてるマンションにパパがしてくれたの。だからほら……」
「わ、わー!!? なんだっけ? コンシェルジュ?って人がいる! へぇぇ……広いロビーだねぇ……」
「あの人殆どの入居者覚えてくれてるから、知らない人が一緒に入ってくるとすぐ駆けつけてくれるの」
「樫木様、そちらはお友達の方ですか?」
「うん、のど……春山さんって言うの。この子が来てもこれからは声掛け無くていいから。ありがと」
「は、春山長閑です」
顔が赤くなる感覚。足早にエレベーターの前へ向かった。ホント、何やってんだろ私……何で……
「コンシェルジュさん、優しそうな人だね」
「……多分、パパとママが私のことを宜しくって言ってあるんだと思う。まぁ……悪い人じゃないけど……」
エレベーターに乗り、何時も通り十五階のボタンを押す。何時もと違うのは……隣で燥ぐ長閑さんがいること。変だけど変じゃないっていうか…………変なの。
「アンナさん、最上階だよ!! すごーい……私こんな格好で来ちゃったけど良かったのかな……」
「……ふふっ、マンションにドレスコードっているの? 着いたよ。こっち」
肩を締め付けるダッフルバッグ。何を詰め込めばこんなに重くなるのだろうか……
「……ただいま」
何時も通り、誰もいない部屋に挨拶をする。
でもこの時……私の中で、大切な音が響いていた。
「ふふっ、おかえりなさいアンナさん」
「…………玄関の外からおかえりなさいって言う人初めて見た。ふふっ…………ふふふっ、変なの」
「えー、変かな?」
少しだけ、素直になれる音が聞こえる。
「…………ただいま、長閑さん」
「うん♪ おかえりなさい」
消灯され暗い筈の部屋達が、明るく見え始めていた。
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