第8話 どうしよう


「アンナさん、連休の予定ってなにかある?」

「いや、無いけど……?」


 祝日前の放課後。長閑さんが目を輝かせながら私に尋ねてきた。

 よほど連休が嬉しいのだろう。私は部屋に籠もって好きな音楽聞きながらゆっくりと……


「私ね、アンナさんのお家に行きたい」

「…………いやいや?」


 いやいや、ホントいやいやなんだけど?

 家に呼ぶんでしょ?それこそ順番ってものがあって、自分の領域に入れる訳なんだから信頼関係を構築し相手のことを受け入れてから……


 あれ?どう……なんだろう?

 

 そもそも私長閑さんの部屋に平然と行った訳だし……あの時点で長閑さんは私に対してある程度信頼していた訳で……

 呼ばれる側と呼ぶ側でこんなにも差があるなんて……まぁでも私も嫌ではないし……長閑さんは他の人と違う……感じだし……


「…………マ、ママに聞かないと分かんない」

「ホント!? 最近夜リモートでお話してるでしょ? そしたらうちのお母さんが“そんなに夜中喋りたいなら泊まってきな”って言ってくれたの。だからもしよかったらお泊りとか……どうかな?」


 ヤバい……頭の中パンクする……トーナメントの初戦が決勝でタイトルマッチで最終回みたいな……我ながら意味不明な言い回しだしどうしよう……それは流石に断わらないと……


「ふふっ、お菓子とかジュース沢山買ってそれから……あ、私Swit◯h持ってくから一緒にやろ? あとはね──」


 なんで……そんなに嬉しそうな顔をするんだろう。なんで………こんなに私はドキドキしてるんだろう。私は今どんな顔をしているのだろうか……


「楽しみだね♪」

「…………そだね」


 意気揚々と先に帰って気の早い支度をしている長閑さんを待たせるのも悪いので、早足で帰宅しママに電話をする。

 駄目って言われたら長閑さん悲しむかな……どうしよう……


『アン? どうしたの?』

「ママ、あのね……その…………と、友達が出来てね……それで……あの……今日、家に来たいんだって。えっと……その……彼女凄く楽しみにしてるから……ガッカリさせたくないって言うか…………」

『……アンはどうしたいの?』

「………………私も一緒に……楽しみたい……かも」

『よし。じゃあ精一杯御もてなししなさい?』

「い、いいの?」

『ふふっ、当たり前でしょ? その子の家の電話番号分かるならパソコンのメールで送っておいて。それからパパにも知らせたいからお友達とお夕飯食べてる写真もカメラで撮って送ってね。連休に入るしお泊りするの?』

「えっと……うん」

『ふふっ、沢山想い出作ってね。ママが帰ったら紹介してね? じゃあ仕事中だから切るよ』

「うん。ありがと……」


 ママ、嬉しそうな声してた……

 私がこんなだから……心配かけちゃってるのかな…………取り敢えず長閑さんに連絡しないと。


『はーい長閑です。ど、どうだったかな?』


 パソコンに映し出された長閑さんを見て、思わず笑ってしまった。餌の時間、目を輝かせて待っている子犬みたい。


「ふふっ、そんなに期待されたら……断れないでしょ?」

『行っていいの!? おかあさーん!! アンナさん来てもいいってー!! 支度してすぐ行くね♪』

「ちょ、ちょっと長閑さん……」

 

 支度をしに行ったのか、通話を切り忘れたまま長閑さんは階段を降りていった。ベッドに置かれたスマホが天井を映し続けている。

 ……私の家の場所知らないでしょ?

 仕方ないのでこのままにして戻ってきたら場所と……


『ふんふーん♪ この服でよかったかな……アンナさんの私服どんな感じだろう。……アンナさん可愛いから何着ても似合うんだろうな。せっかくならドン◯でパジャマ用にお揃いのスウェットとか買っても……でもそういうのアンナさん嫌がるよね。いっぱい楽しんで……アンナさんにも楽しんでもらって……もっともっと仲良くなりたい…………な……? あれ、何でスマホ光って………………もしかして、アプリ切ってない…………ひゃっ!!!!?!?』


 雪崩込むように画面は暗くなり、画面には通話終了の文字が映し出された。

 ……どうしよう。楽しみになってきちゃったかも…………

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