第3話 嫌いじゃない
私は昨日勘違いをしてしまった。
長閑さんに “また明日” なんて言ってしまったけれど、今日は土曜日。
それがどうしたって話なんだけど……
こうして制服を着ている自分が、何を考えているのか分からない。
土曜日に学校へ向っている自分も意味不明。
とりあえずコーヒー牛乳を買って、桜の木の下で暇を持て余す。
「こんにちは、アンナさん」
「こんちは…………ちわわっ!?」
な、なんで長閑さんがいるの……?
っていうかまた顔に絵の具ついてるし。
「ふふっ、もうすぐお昼だけどお弁当持ってきた?」
「いや、ないケド……」
「ちょっと多めに作ってきたから一緒に食べませんか?」
また……この笑顔だ。
春めいたこの顔が、どうにも私の調子を狂わす。
お陰で、わけも分からずピクニックシートを広げる作業を手伝い、何故かオニギリを持たされている始末だ。
「それは鮭かなぁ。私の昆布だけど、アンナさんはどっちが好き?」
「……どっちも好きだけど」
「ふふっ、じゃあ半分こしようね」
……半分こってなんだろう。
大きな桜の木陰、緩やかに吹く風がとても心地良い。
なんて、らしくない事を考える。
春の陽気で頭がおかしくなったみたい。
「アンナさんって、転校してきた時からこの木の下によくいるよね。桜が好きなの?」
「……木は喋んないし、嘘つかないし。馴れ馴れしくしてこないから」
言った後に少しだけ後悔した。
目の前で美味しそうにオニギリを食べていた顔が、悲しい顔になったから。
「ごめん……私……馴れ馴れしいよね……」
「ち、違う! 私達はその……友達……だから……」
なんでこんなに恥ずかしいことを言ってるんだろう。
でもまぁ……
「ふふっ、良かったぁ♪」
これで良かったのだろう。
この顔は……嫌いじゃないし。
「はい、アンナさん。半分こ」
「…………へっ?」
有ろう事か彼女は半分になった食べかけのオニギリを私に差し出してきた。
半分こってそういう意味……
っていうか──
「な、なにやってんの!!? 意味分かってんの!?」
「えっ……? その……どういう意味?」
「か、か、間接キスだよ!!? 特別でしょ!? 好きな人とじゃなきゃ……」
いつもこうだ。
まるで私がおかしいみたいに……
いや、私がおかしいのかな……
長閑さんは……何か違うと思っていたけど……
結局いつも……私は一人──
「い、いいよ!! アンナさんならいいもん!!」
「えっ……?」
私の持っているオニギリを奪い取って勢いよく食べる彼女。
意味がわかってるのかなんなのか……
食べ終わった後、またあの笑顔を私に見せた。
「ふふっ。ね?」
絵の具とお米がついた顔を見ると、なんだか力が抜けてしまって……
思わず笑ってしまう。
ホント、私らしくないや。
でも……
「全然理由になってないし。私は遠慮しとくね」
「えっ!? ど、どうして!?」
「知らないし」
でも、その笑顔は嫌いじゃない。
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