第7話 強面/伯父

突然、ドアが開き体格のいい大柄で強面の男が入ってきたのだ。


「随分と騒がしくしているかと思えば、ジューンズのところの若造が馬鹿言ってんのか。面倒な奴まで呼ぶなよな」


「何!? 僕を誰だとお、も……え? あ、貴方は……イムラン侯爵!」


驚くクァズを無視して、イムラン侯爵と呼ばれた男はイカゾノス家の面々に挨拶する。


「遅れてすまなかったなリーベエ、フミーナ。そしてアキエーサ。ついでにクァズも」


「兄上! よく来てくれた……」


「義兄上……」


突如やってきたこの男、傲慢なクァズやリーベエでさえ苦手とするこの男はルカス・イムラン侯爵だ。リーベエの実兄であり、アキエーサの伯父にあたる人物であり、親族の中でアキエーサの数少ない理解者だ。


「ご無沙汰しております伯父様。この度は妹がお騒がせして申し訳ありません」


「気にするなアキエーサ。お前のせいではないではないか。謝ることではない」


行方不明の妹のこと謝罪するアキエーサに対してルカスは笑って慰める。そんな様子が気に入らないクァズは怒りを露わにする。


「ふざけるなアキエーサ! 何が『妹がお騒がせして』だ! お前がワカマリナを隠したくせに!」


「だから私は何も知りませんって言っているではありませんか。伯父様が来てくださったのだから落ち着いてください」


「落ち着いてられるか! お前の容疑が晴れたわけではないんだぞ!」


アキエーサを指さして叫ぶクァズはまだアキエーサがワカマリナを隠したと言い張る。しかし、ルカスがいるこの場でそんなことを口にするべきではなかった。


「……あぁ? もう黙ってもらえるか小僧」


「え? ひいっ!?」


ルカスはアキエーサに向ける笑顔から一変して、目を細め静かな怒りを込めてクァズを睨む。まるで別人と思えるほど怖い顔つきで。


「先ほど部屋に入る前から聞かせてもらったんだが、アキエーサが監禁したなどとよくもまあ馬鹿げたことを口にできたものだ。お前こそ疑われるべきじゃないのか? 傲慢で女癖の悪いことで有名なんだしな」


「うぇえ!?」


「「やっぱり……」」


「クァズ、お前の被害に遭った女性の中には暴力を振るわれたとか心無い罵声を言われたとかいう者もいる。そんなお前こそ誰からも怪しまれなければならねえだろうがよ」


「そ、そんな……!」


ルカスに睨まれて怯むクァズを見るアキエーサの目は冷めたものだった。両親も似たような目でクァズを見ていたが、ルカスの怒りはそんな両親にも向けられた。


「小僧のことだけじゃないぞリーベエにフミーナ。お前らアキエーサを使用人のように扱っているそうだな。しかもアキエーサに聞けば自分の誕生日プレゼントをワカマリナに奪われ続けているとか。……仮にも自分たちの娘をぞんざいに扱うなよ。それでも貴族の親か?」


「き、聞いていたのか兄上!」


「あ、アキエーサは私が産んだ子じゃないし……」


「だからなんだ? たとえ義理でも親としての務めを果たすべきだろうが? アキエーサが姉の立場だから妹を優先していいはずがないだろう?」


「伯父様……」


アキエーサのために両親に怒りを露わにするルカスにアキエーサは思わず顔を綻ぶ。だが、両親は信じられないような反論を始めた。

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