第6話 作り話/狼狽

「こ、こんなものをこのタイミングで出すなんて、なんて性悪な女なんだ。そうだ分かったぞ! 君が僕のワカマリナをどこかへ隠したんだな!」


「「っ!?」」


「はあ?」


クァズの発言を聞いた両親は驚き、肝心のアキエーサは言っている意味が分からなかった。というか、半分呆れた。


「きっと僕とワカマリナの関係が許せなくてワカマリナを監禁でもしたんだろう! 考えてみれば当然だろうな。可愛すぎる義理の妹に僕のような賢くて金持ちで美青年な完璧貴公子の婚約者が取られたから悔しくて復讐したんだな! そして挙句の果てに僕を陥れるつもりだったんだろう! きっとそうに違いない、なんて嫉妬深くて最低な女なんだ! 伯爵、この女こそがワカマリナが姿を消した元凶です!」


勢いに任せて一方的にアキエーサを非難するクァズは、力強くアキエーサを指さして勝ち誇ったような顔をする。これで状況は一変したとでも思ったのだろう。しかし、そんな咄嗟に考えた作り話を誰も納得できるとは言い難かった。


この時だけはアキエーサと両親の気持ちが一緒になった。クァズの言動に呆れる、と言う意味で。


「この悪女め! 僕の愛するワカマリナをどこへやったのだ!? 答えろアキエーサ!」


更に勢いに任せてクァズは、今にも殴りかかってくるかのようにアキエーサを問い詰めようとするが、アキエーサは慌てることなく答えていく。


「何も知りませんよ。ワカマリナを隠すなどしませんよ。お二人の関係に嫉妬することもありませんし、何よりクァズ様は完璧とは程遠いではないですか」


「き、貴様! 伯爵令嬢風情が侯爵令息である僕を愚弄するか!」


これで立場が逆転できると思っていたクァズは、アキエーサの己を侮るような言葉に顔を真っ赤にする。まさか、ここまで言ったのに冷静でい続けられるとは思わなかったのだ。そのことも馬鹿にするような発言も気に入らなくて仕方がないのだ。


「本当のことを言っているだけですよ。そもそも、貴方を低く評価する私に嫉妬する理由がないでしょう。それに、本当に私がワカマリナを隠すなんてことをすると貴方は思ってもいないのではないですか?」


「な、何だと!? 何を根拠に言っているんだ!?」


今度は図星をつかれて少し狼狽えるクァズ。それでも怯むことなくアキエーサを睨むが、アキエーサは容赦なく反論を続ける。


「まず、私は貴方とワカマリナの関係には感謝しているのです。貴方が私の伴侶になるなど御免こうむりますから」


「な、何だと! 僕をまた馬鹿にしているのか!」


「それに貴方も両親が私に味方しないことは分かっているはずです。でなければ婚約破棄の計画を一緒に考えてくれないでしょう」


「ぐ……そ、それは……」


「味方がいない私がどうやってワカマリナを隠せるというのでしょう? 孤立する貴族令嬢一人ができること等たかが知れること。私の両親ですら貴方の言っていることは無理だと顔に出してますよ?」


「え?」


アキエーサに指摘されて、クァズが両親を振り返ると、二人分の渋い顔がそこにあった。


「え、え~と、伯爵?」


「……クァズ君、こればかりはアキエーサの言う通りだ。この娘一人で妹を監禁などできるはずがないではないか」


「こんな娘にそんな度胸などないでしょう? ただでさえ家出使用人のように扱われるばかりか妹に婚約者を奪われるような娘が」


「し、しかし……え? 使用人?」


予想外の反応に更に狼狽えるクァズ。まさか、伯爵夫妻がこんな反応をするとは思わなかったのだ。てっきり味方してくれると思っていたため、状況がより悪くなったのかもしれない。それに気になる言葉も聞いてしまった。だがそんな時、このタイミングで更に第三者が加わってきた。

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