第26話 溢れた想い
「ごめん、ありがとう……」
そう言って久保は俺の胸から頭を離した。
少し赤みを帯びた目じり。まだ震えている肩。見て分かるくらいの作り笑い。どれを見ても心がすごく苦しくなった。だから僕は、また久保を優しく抱きしめた。
「加藤、君?」
久保の震える声が、か細く胸元から聞こえてくる。
「栞。大好き」
必死に目を向けないようにしていた想いが、どっと外に溢れだした。
「え?」
胸の中から、少し間抜けた声が聞こえる。
「栞は俺のことどう思ってる?」
こうも恥ずかしいことをよく聞けたもんだと、後になってすごく悔やんだが、この時の俺は栞の気持ちがどうしても知りたかった。
「わ、私も。加藤君が好き」
その言葉を聞いて、久保を抱きしめる力が少し強くなった。
「よかった……。栞の口から、まだ気持ち聞いてなかったから不安で……」
「ご、ごめん」
「別に責めるつもりじゃなかったんだ。ごめん」
「ううん。私が言えなかったのが――」
こうして、しばらく「ごめん」の言い合いが続いて、
「ごめんはもう終わりにして、ここから目いっぱい楽しもう!」
栞が空気を断ち切るような明るい声でそう言った。久保の明るい表情に、胸が苦しくなった。僕は今、君に恋をしているみたいだ。
「そうだね。次はどうする?」
「卓球したい!」
「それじゃあ行こうか」
そうして俺達は、卓球にバスケットボール、ローラースケート、テニスといろんなスポーツを時間いっぱいに楽しんだ。
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