第25話 贖罪
「おい! 何してんだよ!」
声を荒げて、久保の腕から男の手を振り払う。
「あぁ?」
見た目通りのヤンチャそうな三人組のリーダーと思われる男が、頭の悪そうな声で俺を見下すようにそう言う。
「何してんだって」
「ちょっとばかり、この子と遊ぼうと思って。なぁ?」
久保の目をまっすぐに見て、男は首を傾げた。
「……」
久保は恐怖からか何も言わず、ただ俺の服の袖を強く握って、静かに肩を震わせていた。
「そうゆう風には見えないけど?」
「んだと?」
喧嘩腰の男の声に
「やんのか?」
つい俺も挑発に乗るように返してしまう。それを見て、右側に立つ一番ひ弱そうな男が、
「ここで喧嘩はまずいですって……」
リーダーに耳打ちした。
「それもそうだな。じゃあ、サッカーで勝負しようか」
リーダーが顎をクイと上げて、挑発するように言ってきた。
「サッカー? まぁ、いいけど」
喧嘩はまずくてもサッカーならいいかと思い、俺は特に抵抗せずに承諾した。
「じゃあ、この勝負に勝った方があの子と付き合うってことで」
「わかった」
「そっちから攻撃で良いぜ? 時間は十分。どっちが点を多くとれるかで勝負だ」
「わかった」
短く返事をして、ボールをトラップすると試合開始が余った二人によって告げられた。
「彼女にかっこいいところ、見せれるかな?」
ボールを転がしたとき、男が挑発してきた。
「そっちも女の子の前で恥かかないようにな?」
目の前で薄く笑ってそう言って、俺はルーレットでさらりと相手をかわし、無人のゴールにパスをした。
「まず一点だな」
挑発するように顎を上げると、男は怒ったように表情を歪め
「なにを!」
そう言って立ち上がった。
そして、相手の攻撃でゲームが再開した。一対一において守備側で意識するのは、相手にどれだけの圧力をかけられるかということ。俺は小さくフェイントを入れて相手をかわしてほしい方向に誘導する。それにまんまと引っ掛かった相手は、俺が出した足をかわすように苦し紛れのシュートを放つ。絶対に入らないシュートを見て肩の力を抜くと、外で見てた輩が調子よくそのボールをゴールに叩き込んだ。
「ナイシュー!」
「はい!」
外にいたはずの二人がなんでもない顔をして中に入ってきた。
「なるほど、そう言うことな。わかった、三対一でやろう」
こんな状況に微塵の動揺を見せることなくそう言うと、男達は勝ち誇ったようにケラケラ笑って、自陣で守備網を形成した。
「よし、じゃあ再開!」
少しテンションを上げてそう言って、ゲーム再び再開された。
「試合終了!」
クッキングタイマーの音が響き、始まった時と変わらぬ声でそう言うと、男達は俺の前に這いつくばって息を切らしている。
「弱すぎ。三対一で勝てないとか、ダサいよ? 早く消えたら?」
ボールを足裏でこねながらそう言うと、男達は観念したように立ち上がって逃げるようにフロアから出て行った。
「久保、ケガとかしてない?」
コートから出て久保に訊ねた。すると久保は、
「怖かった……」
小さくそう言って、涙を流しながら俺の胸の中に飛び込んで来た。
「ごめん、怖い思いさせて」
久保の頭にふわりと手をのせて、そっと撫でる。久保の柔らかい髪の感触がなぜか心地よい。久保の震える身体から、緊張が解れていくのを感じる。相当こわかっただろうな……。俺はこの罪の贖罪として、久保の涙がおさまるまで優しく彼女を抱きしめた。
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