第27話 新鮮なぬくもり

「はぁ~! 楽しかった!」

会計を済ませて、気持ちよさそうに伸びをしている彼の背中に、小さく声を掛けた。

「加藤君……」

「ん?」

彼は優しい笑顔を浮かべて振り返った。その温かい表情に一瞬、頭が真っ白になった。

「あ、あの。その……」

私が一人でもじもじしてると

「そうだ。ここってなんか、メダルみたいなのもらえたよね?」

私の思考を読み取ってなのか、純粋に疑問だったのか、話を切り出してくれた。その言葉に、さっきまで考えていたことが頭に戻って来た。

「うん、そうだね」

「あれってさ、前から思ってたんだけど。何のメダルなの?」

エレベーターが上がってくるまでの時間、加藤君は純粋に聞いてきた。

「プリクラ、撮るための、メダル……」

声を絞り出すようにして、途切れ途切れに彼に伝える。

「そ、そうなんだ」

本当に知らなかったんだろう。彼も少し気まずそうな顔をしていた。

「あの」

「あのさ」

少しの沈黙の後、二つの声がぴったりとぶつかった。

 それと同時にエレベーターの扉が開かれた。正面に立ってたから、二人分かれて降りる人の通り道を作って、その後、二人で並んでエレベーターに乗り込んだ。

「それでさ、さっきのことなんだけど……」

彼は首筋に手を置いて、斜め上を見上げながら声を出した。放たれた声は、心なしか震えているように聞こえた。

「うん……」

彼の緊張とか恥じらいが私にも伝染して、私の返事も小さくなってしまった。

「だから、その……。一緒に撮らない?」

斜め上に向いていた視線が一瞬、こちらに向いた。自分が望んでいたことが、彼の口から提案されるなんて思っても見なかったから、言葉が出てきてくれなかった。

「嫌、だよな。ごめん、忘れて」

沈黙はNOと受け取られてしまったみたい。慌てて声を出そうとした時、エレベーターの扉がゆっくりと開いた。

「帰ろっか」

明るい笑顔なのに、声には力がない。その声が、ひどく私の胸を締め付ける。

 ――私のせいだ。私が何も言えなかったから……。

私は深く後悔しながら、彼の背中を追うようにトボトボと歩いた。

 ――このままじゃ嫌だ……。私、加藤君と撮りたい!

そう強く思った私は、もうすでに声を上げていた。

「加藤君!」

「ど、どうしたの?」

彼は少し驚いた様子で、こちらを振り返った。

「私、加藤君とプリクラ撮りたい」

初めてちゃんと、彼の目を見れた気がする。

 ――加藤君の目、ちゃんと見ると少しだけ茶色っぽいな。

そんな風に彼の顔を見ていると、ちょっと強張っていた加藤君の表情が一気に緩んで、

「よかった。じゃあ、撮ろう!」

眩しい笑顔でこちらに向かって来て、パッと私の手を取った。加藤君の手はすごく大きくて、ちょっとごつごつしてて、とっても温かかった。その、新鮮な温もりが心の奥にまで伝わってきて、すごく心地よかった。

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