第22話 かわいい彼

「そうだ。久保はさ、CoursieAilesのどこが好きなの?」

生写真を楽しそうに見ていた彼の眼は、まっすぐ私を見ていた。彼のことを頭の中で考え過ぎていて全然気づかなかった。

「あ、えっと。それは……」

つい、口ごもってしまった。突然だったからびっくりしたのはある。けど、もう一つ明確な理由がある。それは、私は好きなものの話になると早口になってしまって、言葉が止まらなくなる。

「俺は儚いんだけど、一本ちゃんと芯があるっていうか。たまに一緒に寄り添ってくれて、でもたまに心の支えになってくれる感じが好き」

彼は自分の好きなものの好きなところを恥じることなく堂々と、そして柔らかい笑顔で話した。

 ――加藤君なら、受け止めてくれるかな……

私は、彼に嫌われてしまうかもしれないという恐怖心を抱きつつ、ゆっくりと口を開いた。

「グループの全員があったかくて、楽しそうなところ。曲も、儚い曲も明るい曲も。どんな曲を聴いても元気になれるから……」

チカラの入らない声で、必死に決壊しそうな言葉を留めながら話した。すると彼は、

「確かに。みんな仲良さそうだよね? そうだ。久保はどの曲好き? 俺はさ」

彼は目をキラキラと輝かせたまま、推したちへの想いを爆発させている。その表情はいつになく楽しそうで、どんな加藤君よりもかっこよかった……。

「あ、ごめん。俺ばっか話しちゃったね。 久保の話も聞かせて?」

彼は少し恥ずかしそうに頭を掻いて、私に話を譲ってくれた。彼との心の距離がまた少し縮まった気がした。

「私は、日常って曲が好き……」

また声が小さくなってしまった。加藤君はあんなにも楽しそうに話してくれて、今のこんな私の声にも必死に耳を傾けてくれている。それなのに、私は。このままじゃ、彼にも、推しにも失礼な気がしてきて、私は掛けていたリミッターを外して、想いのまま口を動かした。

 サイドメニューを二人で食べながら、推しについての話に花を咲かせて、あっという間に一時間が経っていた。

「なんか、こんなに話が合う人はじめてだわ」

「私も」

加藤君にそんなことを言われると、なんだか感激してしまって体の奥から熱いものが込み上げてきているのを感じる。

「そうだ。もう一品くらい頼もうか」

「うん」

彼は呼び鈴を鳴らして慣れた表情でデザートの注文を済ませた。少しも驕ることなく、むしろ優しく「お願いします」と店員さんにいう彼に、私は更に惹かれていた。

「あれ。俺の顔に何かついてるかな?」

気づかないうちに、私は彼の顔を凝視してしまっていたみたい。彼は別に何もついていないのに、顔をゴシゴシと擦って、

「取れた?」

と子供のように弾んだ声で訊いてきた。

「うん、取れたよ?」

そんな可愛い彼を見て、今日、いちばん自然に笑えた気がした。

「よかった」

少し肩の力を抜くように猫背になった彼。少し照れたように笑って二杯目のコーヒーに口をつける彼が、狂おしいほど可愛くて、愛おしい。

 こうしてまた、彼のことが大好きになった。

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