第21話 偶然?
「はぁ……。私、ちゃんと彼女出来てるかな?」
鏡の中の自分に話しかける。鏡の中の自分はすごく心配したような、でも少し安心しているような微妙な表情をしている。
「でも、加藤君がCoursieAiles好きなのはびっくりしたなぁ」
不安気な鏡の中の私が、少しずつ笑顔になっていく。
自分の大好きな人が、自分と同じものを好きでいる。ただそれだけの事なのに、やけに嬉しく、とても特別なことのように思えた。
「あ、そろそろ戻らないと……」
手を洗い流して、ハンカチで手を拭いてから加藤君が待っている席に戻った。
「じゃあ、開けよう」
戻った時には既に、彼が頼んだコーヒーと私が頼んだオレンジジュースが机の上に置かれていた。
「そ、そうだね」
はやる気持ちを必死に抑えて、落ち着いて声で答えて目を刺すような黄色の袋から、美しい女の子達の顔が印刷されたCDケースを取り出した。
「久保の推しは?」
加藤君は見たこともない、興味津々といった顔で私に優しく聞いてくれた。目の前にある子供のような目をした加藤君を見ると、心にある空間がキュッて小さくなるのを感じた。
「私は。遠藤さんと、生島さん。加藤君は?」
「俺は、あかりんとさっちゃんかな」
加藤君がなんの躊躇もなくメンバーをあだ名で呼んだ時、彼との心の距離が縮まった気がした。
「お互いさ、推しが出たら交換でどう?」
彼が賭けをするような目で私を見てきた。
「もちろん」
「付き合ってる奴の特権だね?」
「う、うん……」
彼の言葉がやけにくすぐったくて、言葉が詰まってしまった。なんか、嬉しいな……。
「じゃあ、Dタイプからにしようか」
「うん」
一枚ずつ開封していき、私が引いたのは美桜さん、夏樹さん、朱莉さん、咲月さん。加藤君が引いたのは、果菜さん、渚さん、彩花さん、絵梨さん。偶然にも、お互いのAタイプとBタイプで出たのが相手の推しだった。
「ラッキー! 久保の推しを俺が、俺の推しを久保が引くなんて。俺たち、気が合うのかな?」
「そ、そうかな? それじゃあ、交換……」
「おう」
私たちはお互いの推しの生写真を交換した。
「やっぱあかりん可愛いな。さっちゃんも」
普段、教室で見ていた加藤君は、いつもクールで亮太君たちのお兄さんみたいな感じ。でも、いま目の前にいる加藤君は、どこか弟みたいな柔らかい感じがする。
――どっちの加藤君も好きだな、私。
新しい彼の一面が見れて、また彼のことが好きになった。
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