第10話 かわいいお願い

「ふぅ、ちょっと休憩……」

勉強開始から一時間。さすがに腕が疲れてきてパッと顔を上げると、カーテンの隙間から祐希の部屋が見えた。祐希の部屋の桜色のカーテンはしっかりと開かれており、中が丸見えだった。もう少し気を遣ってほしいものだ。

 そんなずぼらな祐希は、机に恨みでもあるかのようにじっと一点を睨みつけていた。

「あいつ、バカだもんな……」

と独り言を零して祐希の健気な姿を見ていると、祐希の視線と俺の視線がピッタリと交わった。祐希は俺の視線に気づくと小さく笑いかけて小さく手招きをしてきた。

「はぁ……」

大きなため息を漏らし、残った自分の課題も持って祐希の家に向かった。


「おじゃましま~す」

「いらっしゃい、陽太くん。上がって上がって」

「はい……」

元気な祐希のお母さんに促され、小さい頃から何度か入ったことのある祐希の部屋に入った。

「なんだよ、また勉強わかんねぇの?」

後頭部を強めに掻きながら祐希に尋ねた。

「分からないよ、全然。もう日本語が意味不明!」

完全にお手上げ状態。もうペンすら持ってないし教科書の隅には落書きが施されている。

 ――ダメだ、コイツ……

「お願い、教えて?」

同級生なのに妹のようにそんなことを言ってくる祐希が、少し可愛らしく思えてつい笑ってしまった。

「で、どこ?」

「ここなんだけど」

俺は祐希の顔のすぐそばまで顔を近づけ、問題文をしっかり読んだ。

「これか。この問題はさ文章の通りで――」

祐希のシャーペンを使って薄く問題の脇にヒントを書き並べた。

「ま、こういうこと。だから、解いてみ?」

「うん」

「俺はここで勉強してるから。分からなくなったら言って?」

「うん」

俺は祐希の後ろにあるミニテーブルの上に課題を開いてすらすらと問題を解き進めた。

「できた!」

二人の間に流れていた静寂の時間が、祐希の一言で切り裂かれた。

「お、じゃあ次も同じようにやって」

俺は自分の課題から目を離さずに祐希に指示をした。

 そして一時間ほど経ったときに、ようやく祐希の課題が終わった。俺は祐希が解き終わる30分ほど前に課題が終わっていた。

「ありがと~。今日も助かったよ!」

「マジでちゃんと勉強しろよ? 俺だって忙しいときあんだから」

「は~い」

祐希の気持ちの入ってない返事を聞いて僕は立ち上がった。

「じゃ、帰るな?」

「うん。また明日ね」

「おう」

俺は祐希の部屋を出て階段を降りて「お邪魔しました~」と一言残して祐希の家を出た。

 辺りは少しずつ暗くなっていて、どこかの家からカレーのにおいが香ってきていた。

「今日の晩飯なにかな」

俺は胸を躍らせながらすぐ隣の家に帰った。

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