第8話 幼馴染み

「デートってどうすりゃいいんだよ……」

と独り言ちていると

「お、今お帰りかな?」

耳馴染みのある幼い声がすぐ隣から聞こえてきた。

「祐希」

振り向いた先にいたのは幼馴染みの野田祐希だった。祐希は幼稚園の頃からの腐れ縁で、高校も同じところに通っている。身長が低くて小動物のような見た目から、ペットのような存在としてみんなに慕われている。実は周りの男子からの人気も高かったりする。理由は亮太が言うに『胸がデカい』からなんだそうだ。男子高生とは実に単純なものだ。

「さっきさ、デートって聞こえてきたんだけどさ。彼女でも出来たの?」

昔から地獄耳で、こう言う話題に目が無い祐希は、俺との距離を一気に詰めて来て僕の目を見つめてそう聞いてきた。

「俺に彼女? ないない」

祐希の問いかけに作り笑いを浮かべてあっさりとかわす。

「じゃあデートって何?」

純粋な目で聞いてくる祐希に俺は、

「あぁ、なんかさ。俺がモテるからとか言って、俺にお勧めのデートスポットみたいなのを聞いてきた後輩がいてさ」

ポンと頭に湧いてきた嘘を、さも本当のことのように話す。我ながら咄嗟に嘘を吐くときのバリエーションは世界一なのではと思ってしまう。

「そーなんだ~。陽太に彼女がいたことなんかないのにね?」

「だから困ってんだよ……」

これはまぎれもない事実。久保とのデート先は本当に悩んでいた。罰ゲームなんだし悩む必要はないのかもしれないが、なんとなくちゃんとしなきゃなと俺の心の中の清い部分がそうさせようとしてきていた。

「ん~、じゃあさ。無難に駅前とかで良いんじゃない? なんでもあるし」

「いいな、それ。サンキュ、祐希」

「ぜ~んぜん。これぐらいならいつでも」

急に姉貴みたいな面をしてきた祐希に

「お前も彼氏いたことないけど、まぁ参考にはするわ~」

とイヤミったらしく返すと、澱んでいた心がスカッと晴れた。

「あぁ~! もう!」

そんな言葉を真に受けて小学生のように両頬を膨らませる祐希。まるでハリセンボンだ。

「やっぱりガキだな。じゃ、またな」

祐希の顔を見てフッと笑った後、彼女に背中を向けて俺は一足先に家に入った。

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