第6話 土曜の予定
母とのガールズトークに花を咲かせていると、手元のスマートフォンが震えた。
「あ、加藤君からだ……」
「加藤君って、彼氏?」
「うん……」
「早く出なさい?」
母がフフと笑って立ち上がり、キッチンの方に戻って行った。
「うん」
聞こえないくらい小さな声で返事をして手元のスマホに視線を落とす。
「ふぅ……」
一つ息を吐いてから、恐る恐る緑色のボタンをタップした。
『もしもし、久保?』
「……」
つい、いつもの癖で首を縦に振ってしまう。
『もしもし? あれ。聞こえてないのかな……。おーい』
「あ。き、聞こえてます……」
緊張してのどが絞まって声が上ずってしまう。
『よかった。あのさ、急で悪いんだけど。今週の土曜か日曜って暇だったりする?』
「あ、ちょっと待って、ください……」
付き合ってるのに敬語で話すのは、タメ口で話すなんておこがましいって思うから。私なりの最低限の礼儀なのだ。
「どっちも空いてます……」
手元の手帳を見て静かに答える。
『そっか。それなら土曜の十時くらいから遊ばない?』
彼の明るい声が、確かに私の鼓膜を振動させた。
「は、はい」
彼の言葉がすごく嬉しくて、つい声が大きくなってしまった。
『そ、そっか。それじゃあ久保の家に迎えに行くから』
「あ、はい」
『それじゃあまた、学校で』
「はい……」
そう返すと静かに電話が切られた。
心臓の音が耳のすぐそばから聞こえてきているよう。彼の柔らかくて、あたたかくて、ちょっと低めの声が、今も耳の中に心地よく残っていた。
「栞。加藤君なんだって?」
「ど、土曜ね。デートしようって……」
母に打ち明けると、母は嬉しそうに表情を緩ませて
「デート! 良いじゃない! 楽しんできなさい!」
自分が行くかのように楽しそうに手を叩いて喜んでくれた。
「うん……」
デートまであと三日。今からワクワクと緊張で心臓が破裂してしまいそうだった。
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