第5話 初恋
「ただいま……」
私は項垂れるようにリビングにあるふかふかのソファーに倒れこんだ。
「おかえり。どうした栞。何かあった?」
キッチンで晩ご飯の用意をしている母が心配して声を掛けてくれた。
「あのさ。えっと……」
「なに?」
隣に座った母にたどたどしい言葉で
「彼氏できた……」
囁くような小さな声でぼそりと言うと、その百倍くらい大きな声で
「本当なの? どんな人? イケメン?」
母はマシンガンのように質問攻めをしてきた。その母の興奮具合にたじろいていると、母は「ごめん」と小さく謝って一つ深呼吸した。
「で、どんな人?」
母は女子高生に戻ったかのように目を輝かせて興味津々な瞳を私に向けてきた。
「えっと……。明るくて、頭が良くて、運動も出来て、すごく優しい人」
教室の隅っこからずっと目で追っていた彼からの告白。彼への想いが増大して今にも爆発してしまいそう。
「素敵な子ねぇ~」
母は自分の中で彼の顔を構築して楽しそうに天井を見上げている。
「ねぇ、写真とかないの?」
視線がいきなりこちらに向けられてビクッと身体が震えた。
「あの、えっと……。この人」
フォルダを探して見つけ出した、ちょっと盗撮めいた写真を母に見せる。
「あら! イケメンじゃないの! でも、栞のことを見てくれる人がいるなんてねぇ」
「……うん」
確かに、前髪が目にかかるくらいまで伸びていて、俯いてるから顔もろくに見えず、声をほとんど聞いたことが無い。陰で'幽霊'と呼ばれているような私を好きになってくれたなんて、奇跡以外の何物でもなかった。
――これは、運命なのかも……
柄にもなくそんなことを考えてしまうくらい、今の私は舞い上がっていた。
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