第3話 コクハク
その後、いつものようにだるくて長い授業が行われた。この日ばかりは時間がゆっくりと流れてくれる授業たちにありがたみを感じた。
「んじゃ、頑張って来いよ」
「ファイトぉ」
「やっぱ撮っとくか」
他人事だと思って笑いながら言ってくる三人を一瞥して、
「ほっとけ。じゃ、行ってくる」
と、荷物を持って一人で教室を後にした。
階段を一段、一段と上るにつれて三人への怒りと、俺のミジンコほどもない幽霊への想い、こんな状態で告白する自分の惨めさ。いろんなものがごちゃ混ぜになって、こころというものが分からなくなった。
「なんで俺が……」
愚痴を零しながら屋上の扉を開くと、幽霊は既に屋上に来ていた。いつも通り、地面と靴の境界線を見つめて。
「あ、急に呼び出してごめん」
恥ずかしながら、初めての告白ということもあって一言目がたどたどしくなってしまった。
「……」
幽霊は一言も言葉を発さぬまま、首を大きく横に振った。
「それで、さ。手紙にも書いた通り話があって」
幽霊に少しずつ近づきながら言葉を紡ぐ。幽霊は変わらず無言で首を小さく縦に振る。
「俺さ。幽……。じゃなくて、久保さんのことが好きでした。ていうか、今もなんだけど……。だから、俺と付き合ってください」
俺のぎこちない告白に、目の前にいる"幽霊"改め"久保"があたふたしているのを下げた頭の上から感じた。
「あの、ダメかな?」
一向に返事が来ないことが心配になって顔を上げると、久保は首を必死に左右に振った。
「じゃあ、良いってこと?」
「……」
久保は今まで見た中で一番大きく首を縦に振って見せた。
「よかった……。じゃあ、帰ろうか」
久保の首が小さく縦に動いて、俺は彼女になった久保と一緒に屋上を後にした。
「じゃあ今日は送って行くよ」
「あ、はい……」
久保の小さな声が、耳のすぐそばで聞こえてきた。初めて聞いた彼女の声は、春風のように優しくて柔らかくて、ものすごく心地が良かった。
――こんな声してたんだ……
この可愛らしくて美しい声の持ち主に幽霊なんていうあだ名は、とても似つかわしくないなと素直に思った。
「どっち?」
「……」
聞くと、久保は声を発さず右の方に指をぴんと立てた。
「行こ」
ぎこちない距離を保ったまま、僕たちは久保の家に向かって足を進めた。
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