第2話 憂鬱

 迎えた次の日……。俺は柄にもなく早く登校をして、古典的だが幽霊の下駄箱に手紙を忍ばせた。なぜ手紙なのか。理由は簡単で、誰も幽霊の連絡先を知らないからだ。

「これでよし……」

靴を履き替えて教室に向かった。いつも聞こえてくる同級生の馬鹿みたいな騒ぎ声が聞こえてこない廊下が少し寂し気に感じ、足取りが重たくなる。

 誰もいない教室に自分の足音だけが響く。いつも向かっている自分の席までの距離がやたらと長く感じてしまう。俺は、いつもの窓際の席に座りぼんやりと窓の外を見ていた。外には、昨日の昼間まできれいに咲いていた桜の花びらがグラウンドの上で春の終わりを最後まで楽しませようと舞を舞っている。

「はぁ……」

不意にこぼれた溜め息のすぐ後に、背後からスゥーと椅子を引く小さな音が聞こえてきた。ゆっくり振り返ると、そこでは幽霊がいつものように下を向いてたたずんでいた。少し下に視線を動かすと、彼女の手には俺がさっき忍ばせた手紙が確かに開かれていた。重たい前髪の間から見える瞳は左から右に素早く動かされている。

「マジか……。ハァ……」

幽霊に聞こえないようにボソッと小さく呟いて、俺は机に突っ伏した。その時、

「えっ!」

という大きな声と共に、ガタンと椅子が倒れる音が聞こえてきた。教室にいるのは俺と幽霊の二人だから誰の声なのかはすぐに分かったが、今までに聞いたこともない大声に驚きを隠せなかった。

「あ……。ごめん、なさい……」

慌てた幽霊はいつものトーンに戻って椅子を起き上がらせて、音もなく椅子に座った。

 その後、続々とクラスのメンバーが教室に入ってきていつものにぎわった声が心地よく耳に響いてきた。

「おっはよ!」

「おう……」

元気な三人とは対照的なトーンで返す。

「おいおい! 元気ねぇな!」

この早起きと憂鬱の原因を作った張本人たちが楽しそうに笑ってそう言ってくる。

「で、今日はどうすんの?」

「放課後に屋上呼び出したから。そこで告る」

「フゥ! 良いね!」

いつも通りのハイテンションで亮太が言う。今日はいつにも増して笑顔が輝いている。

「じゃ俺、カメラで撮っとくわ!」

雄哉がスマホを構えてすぐおどけて笑う。

「やめぃ! 恥ずいし誰が得するんだよ!」

「俺らの笑い話になるだろ?」

浩介はのんびりとした低い声でフッと笑って見せる。いつも通りのこの会話。今日初めて楽しくない、明確にそう思った。

「みんな、席に着いて」

担任のその声を境に各々が自分の席に戻り、いつもより退屈なホームルームを聞いた。

「それじゃあ今日も頑張りましょう」

「は~い」

新任の教師だから仕方が無いのかもしれないが、最後の言葉がやけに鬱陶しく感じた。

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