*恋泥棒*
三宅天斗
第1話 親しき中にも礼儀あり?
「っしゃ! また一位!」
「くっそ」
「お前、強すぎ」
校庭には桜が咲き誇り、柔らかな風が木々の枝を揺らす穏やかな放課後。俺はいつものメンツと屋上に集まってレースゲームを楽しんでいた。
「それじゃあさ、次負けた奴に罰ゲームつけようぜ!」
さっきのレースで二着だった
「いいな、それ」
雄哉の一言に全員が賛成し、この日の最終レースが始まった。
「それで罰ゲームは?」
堂々の一位を死守したまま最終ラップに差し掛かり、余裕しゃくしゃくで三人に訊くと
「決まってから考えよーぜ」
とスマホを熱心に見つめたまま、
「だな」
集中状態のままトップを走り、間もなくゴールという所。
「よし、また一位――」
スマホから手を離そうとすると、背後からいくつものアイテムが飛んできてゴールライン目前で最下位に陥落。罰ゲームは俺に執行されることになった。
「マジかよ……」
現実を見つめて肩を落としていると、
「じゃ罰ゲーム考えよーぜ!」
今のレースを一位で終えた
「面倒なのはやめろよ」
「わーってるよ」
聞いてるのか分からないトーンで浩介が返す。さすがに仲のいい四人組だから限度というものは理解しているはずだ。
「これよくね?」
「いいね!」
「賛成」
三人の意見が固まったらしく全員がこちらを振り返った。
「で、罰ゲームは?」
ジュース一本おごりとか、昼飯一食おごりくらいのスケールを想像して、軽い声で訊くと、雄哉は不敵な笑みを浮かべて
「クラスの、あのー。幽霊みたいな奴と夏祭りまでの期間、付き合うこと!」
衝撃的なことを口にした。幽霊みたいな奴……。ぱっと言われて思いつくのは、教室の隅っこの席でいつも俯きがちに机をじっと見つめて座っているあの髪の長い女子。
「はぁ? ざけんな。んなの無理!」
限度を知らない奴らの罰ゲームにすぐ拒絶すると、
「俺らの罰ゲームに?」
亮太が挑戦するように俺に訊く。
「拒否権はない……」
仲良くなったその日に作った俺らの掟のようなものが今では恨めしく思える。
「じゃ明日にでも告れよ?」
雄哉の背中にワクワクという効果音が見える。他人事だと思って……。
「わかったよ」
「それじゃそーゆーことで。帰りますか」
「おう」
三人はスマホを制服のポケットに滑り込ませて楽しそうに立ち上がった。
「マジか……」
苦々しい現実を受け入れて三人より少し遅れて立ち上がった俺は、スマホをカバンの中にしまって扉の奥に消えた三人の背中を追った。
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