第20話
「昨日佳太くんと一緒にいたでしょ」
そう言われて私はキョトンとしてしまう。
佳太くんって誰だろう?
「しらばっくれてんじゃねぇよ! 昨日の放課後花壇にいただろうが!」
私の態度が気に入らなかったようで耳元で怒鳴られて萎縮する。
身を固くした時、『花壇』という単語が聞こえてきて私は「え?」と聞き返していた。
「佳太って、あの私服の人?」
「はぁ? あんた名前も知らずに話してたの?」
坂下さんは呆れているようだ。
私は素直に頷いた。
学校内をいくら探してみても見つからないし、もしかしたら他校の生徒かもしれない、なんて思っていたところだ。
でも、坂下さんが名前を知っているということは、やっぱり同じ学校の生徒なのだろう。
そしてこれほど怒っているところを見ると、彼が人気者であることが伺いしれた。
「あんた佳太くんとどんな関係なの? あんな場所で2人きりでさ」
そう言われて慌てて左右に首を振った。
「なにもないよ。ただ、水やりをしていたときに偶然会っただけ」
私のせいで彼の評判が落ちることは避けたい。
下手をすると彼までイジメられてしまうかもしれないし。
「なんであんたが花壇の水やりなんてしてんのよ」
聞かれて、私は仕方なく花壇係りについて説明した。
途端に坂下さんは大声で笑い始める。
「花壇係ぃ!? なにそれ小学生かよ! やっぱり特別学級のやつらバカばっかんなんじゃん!」
お腹を抱えて笑い転げる坂下さんを見ていると、特別学級の仲間たちを思い出した。
景子ちゃんに大田先生にキンパ。
他のみんなもとてもいい人ばかりだ。
とても病気や悩みを抱えているようには見えない、快活さがある。
「そんなことない。みんなすごくいい人たちだよ」
私は拳を握りしめて言った。
だけどそんな言葉は坂下さんには届かない。
坂下さんはさんざん笑ったあとふと真面目な雰囲気に戻り「とにかく、佳太にこれ以上近づかないでよ」と、私に忠告をしてきたのだった。
☆☆☆
気が付かなかった。
佳太くんがそれほど人気の生徒だったなんて。
でもそれならどうして休憩時間に探した時、見つけることができなかったんだろう?
疑問は残るが、きっと自分の探し方が悪かったのだろうと思った。
「知奈ちゃん。今日も午後からは特別教室へ行くの?」
鈴の音に話しかけられて私は「うん。えっと、雪ちゃん?」と、恐る恐る名前を呼んだ。
「うん雪だよ。そっか、でもお昼はこっちで食べない? みんなも知奈ちゃんと食べたがってるんだ」
そう言われて視線を向けると2人の生徒がこちらへ向けて手振ってくれている。
名前は……あの仕草だけじゃ、ちょっとわからない。
だけど胸に温かいものが広がって行くのを感じる。
「みんな知奈ちゃんに謝りたいんだって。自分たちのせいで、知奈ちゃんが教室にいられなくなったと思ってるの」
「そんな、みんなのせいじゃないよ」
左右に首振って言うと、雪ちゃんは頷いてくれた。
「わかってる。それに知奈ちゃんもなにか事情があるんだよね? 話してくれると嬉しいけど、無理そうかな?」
無理矢理聞き出すわけじゃない雪ちゃんの心配りが嬉しい。
そんな風に接してくれる人は今までいなくて、涙が出そうになってしまった。
「わかった。でもすぐに話すことは難しいかもしれない」
「そっか。いいよ、いつになっても待っているから」
「ありがとう雪ちゃん」
「ううん。じゃ、お昼は一緒に食べようね」
その言葉に私は笑顔で頷いたのだった。
☆☆☆
久しぶりにA組で食べるお弁当はどこか格別な味がした。
友達に囲まれて食べるご飯はどんなものでも美味しく感じられる。
「じゃあ、今日はまた特別学級へ行くの?」
「うん」
「そうなんだ。ねぇ、特別学級ってどんな感じ?」
「えっと、特別学級にも種類があって、私が行っているのは見た目じゃわかりにくい病気を持っている子たちのクラスで――」
そこまで言って、しまったと口を閉じる。
隣に座っている雪ちゃんへ視線を向けると、雪ちゃんはゆっくりと頷いてくれた。
今ので私が病気であることを告白したことになる。
けれど友人らから深い追求はなかったので、特別学級について話を勧めた。
「みんな優しくて、すごく勉強ができるの」
「だから知奈ちゃんも授業の時迷いなく答えられるんだね」
「いいなぁ! 私も頭よくなりたい!」
1人がそう言って両手で頭を抱えて嘆くので、みんなして笑った。
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