俺の彼女は何かおかしい

 クリスマスに書いた短編です

―――――――――――――


「この緑のソースは?」


 目の前には彼女お手製のゼリー。

 今、まさに出来上がって僕の前に置かれたゼリーだ。


 赤いゼリーの上には緑のドロリとしたソースがかけられ、それがゼリーの側面をつたい白い平皿の上に落ちている。


「聞かない方がいいと思うよ」


 彼女は意味ありげな表情でそう言うと、さっきまでソースを煮詰めていた小鍋を洗い始めた。

 ジャーと蛇口から出た水が小鍋を叩く。


 そういうはぐらかし方、本当にやめてほしい。

 気になるけれど、聞くに聞けない。

 食べるに食べられない。


「もちろん、聞いたら完食するんだよ」


 迷ってる僕の顔を見て、彼女は楽しそうに言う。


「聞かなかったら?」

「彼女の手作りを食べない酷い男って評判が立つかもね」

「嘘でしょ?」

「うんウソ」


 彼女はふふふと笑う。僕を困らせるのが本当に好きで何かにつけて翻弄してくる。


「人が食べられるものだよね?」

「えー? それは流石に信用なさすぎじゃない?」


 いや、彼女のぶっ飛びっぷりを信用しているからこその質問だ。

 でも、それを口に出したら彼女はきっと機嫌を損ねる。それは嫌だ。


「……わかったよ」


 スプーンを握り直す。

 なるべく緑のソースに触れないようにゼリーをすくう。

 彼女はこっちを見ている。

 でもなにも言わない。


 ゼリーを口に含む。

 とろけるような甘さをほんの少しの酸味が引き立てる。

 つるり、とゼリーは喉の奥へ滑っていった。


「うまい」


 呟いた瞬間、視界が回りはじめた。


「あれ……」


 堪らずテーブルに肘をつく。


「緑のソースを食べる量が多いほど早く帰って来られるように作ったのよ」


 彼女が何か言っている。

 だが、回る視界に気持ちが悪くなってそれどころじゃない。


「ふふ、楽しんでね。メリークリスマス!」


 彼女の言葉を最後に視界が暗転した。



 ―――


「……寒っ!!」


 あまりの寒さに目が覚めた。

 すぐに思い出す彼女とのやり取り。

 やっぱり怪しいものは彼女の手作りでも食べるものじゃないな。


「ホッホッホ。目が覚めたようじゃな」


 話しかけてきたのは、顔面を白い髭で覆われたじいさん。


「え、まさか」


 真っ赤な服と、手には手綱。


「今夜の配達を手伝ってくれるんじゃて? よる年波には勝てんでな、助っ人を頼んだら兄ちゃんが来てくれたってわけじゃよ」


 いやいやいやいや。


「時間制とか聞いたんじゃが、まあのんびり手伝っとくれ」


 冷たい風が頬を刺す。


「なあじいさん、これは、夢……だろ…………?」

「現実じゃよ」


 さらりと言うじいさん。


「………………嘘だああああああああああああ」


 そして、俺の声は夜風に消えた。


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