第28話 隠顕
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「ねえ」
「へ? 何?」
いきなりオリビアから話かけられて声が裏返ってしまった。
「ここの問題がわからないのだけれど」
「え」
「教えてくれない?」
「うん」
固唾を飲んで、彼女の隣へ座った。
「ねえ もっと近くに来て」
そう言うと、彼女は自身の真隣を手でぽんぽんとやり僕を誘った。
「わかった」
彼女が髪をかき上げるとふわっといい匂いが漂う。
やたら唇に艶があって、息遣いが一呼吸ずつ鮮明に聞こえる。
△ △ △ △ △
「2人だけね」
「え あ ああ なんだよ」
(なんだ ただの妄想か)
「何? ただちょっと気まずいから状況報告しただけよ 何を期待していたの?」
「べ 別に……」
‡ ‡数時間前‡ ‡
「じゃあ行ってくるよ タイタニア君大丈夫?」
「いいよ先生 早く行こ! 母ちゃん いってきます」
「いってらっしゃい 頑張ってね」
「うん!」
タイタニアと先生はドラテンの2次予選に向かった。今回は会場が遠いため、ロイとオリビアはお留守番となった。
「じゃあ 私たちも行きましょうか」
「はい」
「モーガン どこに行くの?」
「台地の方へ買い出しに行って参ります」
「この前の祝賀会で食材をもうほとんど使い切っちゃったから 大丈夫だと思うけど仲良くね」
「わかりました おば様」
† † †
というわけで、今家には僕とオリビアの2人だけなのである。
「ってか この前先生がなんて言ったか覚えてる?」
(タイタニアのお母さんに祝賀会の参加を促された時か)
「多分 “死にづらくなる”みたいな感じだったと思う……」
「そうよね 私もそう聞こえたわ 先生っていい先生だけど 距離を置きがちっていうか」
「わかる すぐに1人で帰ろうとするし プライベートなこと聞いても答えてくれないし
でもタイタニアが一次突破できなそうになった時は本気で泣いてたみたいだったけど……」
「だいぶ前だけど 先生
社会の授業の時“烏合の革命”後の“極刑裁判”の生き残りの子孫だとか笑いながら言ってたわよね」
「確かに」
「こっからは 完全な私の推論でしか無いのだけれど 先生って殺されるんじゃないかしら」
「う うん」
「あんまり驚かないのね」
「まあ」
「先生は“極刑裁判”の生き残り
つまりは今の政府の反乱分子の一つな訳で
いくら先生が今の政府に対して何の憎悪も抱いていなかったとしても
現体制は取り除ける不安を取り除きたいはず……」
「先生がこんな
村の皆んなに顔が知られてる以上
「まあ そうなのだけれど……」
「でもまだこれは君の推測の域を出ない この前だって本当は“帰りづらくなる”とか別のことを言ってた可能性も否定できないし
ただ先生が君みたいに馴れ合うのが苦手なだけかもしれない」
そう言葉では言っときながら、少し前から薄々勘づいていたことが第三者も同じ考えであることを知り、ロイにとってそれは推測の域を出て確信となっていた。
「少し強引ね」
「最悪なケースだけ考えてもしょうがないだろ それに僕らの家庭教師をしている間は殺さないさ」
「まあ そうね すぐに死亡が確認されるもの
あと私 別に馴れ合うの苦手じゃないのだけれど」
「そうなのか? 前の学校では 仲のいい友達はいたの?」
「ん! も もちろんよ もちろん……」
(少し酷な質問だったか? まずい フォローしないと)
「ま まあ 言葉使いも丁寧だし 容姿も悪くないし 前の学校では仲良い友達がいっぱいいたんだろうなぁ」
「え えぇ……」
(やばい 逆効果だったか そりゃそうかいじめられてたんだ 知らないふりして聞くのは無理だ 一旦謝るべきか いやでも……)
「う……」
ズズッ
オリビアから鼻を
それに気が付いてロイは直ぐにオリビアの元に駆けつけた。
(だめだ モーガンから聞いたことも含めて謝らないと)
「オリビア さん?」
そう言って、顔を覗き込むと、そこには目いっぱいに涙を溜めた彼女がいた。
「ご ごめん」
「……」
「大丈夫……?」
「は!」
オリビアは気がついたようにそう言った。
「涙……」
「なんでもないわ ちょっと風に当たってくるわね」
なんでもないわけなかった。ロイの視界から外れるとすぐさま涙を拭い、逃げるように家を出た。
「どうしよ……」
[極刑裁判:烏合の革命の後日に前王国の生き残りの貴族及び親族全員、計66人を斬首した見せしめの裁判。記録上は女、子供関わらず打首となった。]
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第28話 『隠顕』
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