5.ネズミ族の住む理想郷とは


◯キャラクター(推奨3人、最大4人)

※多、少はセリフの量です。2役以上で割り振る場合、目安にしてください。



ナレーション(N)……ゴマの声。多


ゴマ……♂、ちょっとガラガラ声。ブチギレシーン有り。多


ルナ……♂、高い声の男の子。泣きシーンあり。少


プレアデス……♂、声高めのお兄ちゃん。爽やかにいい人っぽく。説明シーン多々。多



◯ポイント

ゴマくんはキレたり呆れたり、感情豊かなセリフが多いです。プレアデスはゴマ君に何を言われようとマイペースに説明を続けます(・ω・`)



——————————————————



N「薄暗い灯りがついたり消えたりする、ジメジメとした地下室にて」



プレアデス「ただいま。ニャルザル軍はいなくなったから、もう大丈夫だよ。被害はそんなに大きくはなかったけど、ここら一帯はニャルザル軍に占拠されそうだ。食糧もほとんど、持って行かれてしまった」



N「外の様子を見に行っていたプレアデスが、額に擦り傷を作って帰ってきた」



ゴマ「おい、ボクらここで死ぬのか?」


プレアデス「大丈夫。僕たちの分の缶詰は確保してあるし、ニャルザル軍は資源を奪うという目的を果たしたから、もう攻めては来ない。だけど僕はこれから、残りの資源の確保と町民の誘導をしなくちゃいけない。しばらく留守にするけど、ゴマくんたちは絶対にこの地下室を出ないでね。それと……」


ルナ「ねえ、帰りたいよ! メル姉ちゃんにもじゅじゅ姉ちゃんにも、ユキとポコにも会いたい! うぇーん……」



N「ボクが無理やりルナを連れて来たばかりに、こんな事に巻き込まれちまった。ボクは後悔した。だが、このまま何もしねえ訳にはいかねえ。何としても、帰る手段を見つけなければ」



ゴマ「プレアデス、ボクらは本当に地上へ帰れるんだろうな?」


プリキュア「その話だけど……、さっき言った地上に行ったという研究者に頼めば、君たちを地上に送り届けられるかも知れない。僕の仕事が落ち着いてからになるけど」



N「地上のどこかで、ネズミだけが住む理想郷を見たとかいう、研究者。正直怪しげだし、期待は出来なさそうだ。だがそれしか帰る手段がねえってんなら、信じるしかなかった」



ゴマ「……わかった。ならさっさと仕事終わらせて来い。そして、一瞬でも早く、ボクらを地上に帰せ」



N「ボクはそう言って見送ろうとしたが、プレアデスはまだ何か言いたげだ」



ゴマ「何だ、まだ何かあんのかよ」


プレアデス「……その前に、君たちの力を借りたいんだ。〝ネズミたちの住む理想郷〟がもし地上に本当にあるなら……。そこがどんな世界かを、僕と一緒に見に行って欲しいんだ」



N「コイツ、ふざけてんのか。ボクは、わざと大きく舌打ちをした」



ゴマ「……チッ。そんなもん無えに決まってんだろ!」


プレアデス「まっ、とりあえず僕の仕事を終わらせてから、例の研究者に会ってくるよ。何日か空けるけど、絶対に外出ちゃダメだよ」


ゴマ「何日か空けるだと⁉︎ おいコラふざけんな! 一瞬でも早く帰せっつっただろ! この野郎、一発殴……」


ルナ「ダメ‼︎ 兄ちゃん‼︎」


ゴマ「いでえ‼︎ ルナ、テメエ何しやがる!」



N「プレアデスに一発ネコパンチ食らわせてやろうとしたが、ルナに思い切り尻尾を引っ張られて空振りしてしまう」

  


プレアデス「食糧の缶詰はそこに置いてくから。じゃあ、行ってくるね」



N「そんなボクの気持ちを無視するかのようにプレアデスはそう言って、スタコラと出て行ってしまった。そして、数日後」



ゴマ「おい、ルナ。プレアデスの野郎が帰ってくるまでまだ時間がある。外へ出てみねえか?」


ルナ「ダメ兄ちゃん。危ないよ。外出ちゃダメってプレアデス兄ちゃん言ってたじゃん」


ゴマ「じゃあお前そこで待ってろ。ボクは体動かしたくてもう限界なんだよ」


ルナ「ダメだってー! 待ってよー!」



N「ルナの忠告を無視して、ボクは扉を開き階段を上がり、外に出てみた。目に入ったのは、真っ黒に染まった空だった。地底世界にも、夜があるらしい。だが空には、月も星もない。ただ黒一色の闇が広がるだけだった」



プレアデス「ゴマくん! 外出たら危ないよー!」



N「プレアデスの奴が、ちょうど帰ってきやがったんだ。全く、タイミング悪りい」



ゴマ「クソ! 外の空気が吸いたかったんだよ。それよりなんだこの空は。真っ暗というより、真っ黒じゃねえか」


プレアデス「今は、セントラルサンの輝きが弱くなる時なんだ。それが地底世界での夜なのさ。僕の腕時計の短い方の針が一回りしたら……つまり12時間が経つと、またセントラルサンが輝き出して夜が明けるんだ。さ、早く地下室へ戻るよ」


ゴマ「星も月もない夜空ってのは、不気味だな」


プレアデス「そお? あ、そうだ。例の研究者と会って来たんだ」


ゴマ「ほう。で、どうだったんだよ。ボクらは本当にその研究者とやらを頼れば地上に帰れるのか?」



N「プレアデスをひと睨みすると、奴は自信に満ちた顔で答える」



プレアデス「うん! 地上に行った事があるって話も、ネズミの理想郷があると言う話も、全部本当だったんだよ! 詳しくは後で話すね!」


ゴマ「……じゃあ早くその研究者とやらに会わせて、ボクらを地上に帰せ。まるでここは、地獄じゃねえか……。ニャルザル軍だっけ? そいつらとの戦争は、まだ続くのか?」


プレアデス「それが、今回は地底世界全体を巻き込む大戦争になりそうなんだ。勝った国が、地底世界の資源を独り占めするだろうね。そもそも地底の資源自体がもうほとんど無いんだけど」


ゴマ「……資源がねえのに、戦争なんかしてどうすんだよ」


プレアデス「だから、まずいんだ……。このままだと地底世界は、滅びてしまう」



N「全く、何が資源の奪い合いだ。クソくだらねえ。ボクらの住む地上世界では、公園にでも行きゃあ、食いモンだろうが何だろうが、そのへんのニンゲンがいくらでもくれる。欲しけりゃ、持ってってやるのに。同じ地に住む同じネコ同士が殺し合うなんて、そんな事してどーすんだよ。結局勝ったとしても、虚しいだけじゃねえか。ボクとプレアデスは、ジメジメとした地下室に戻った」



ルナ「兄ちゃん! あ、プレアデス兄ちゃんも……。ねえ、僕たち本当に帰れるの?」


プレアデス「うん、僕が責任を持って、君たちを地上に送り届けるよ。その代わり、前言った通り、君たちに仕事を頼みたい」


ゴマ「……ネズミだけが住む理想郷を見に行く……ってヤツだな」


プレアデス「そう。実はもう、その場所も特定してあるし、そこへ行くための手段もある」


ゴマ「何だと? いや、しかしよ、プレアデス」


プレアデス「何だい?」



N「ボクは率直な疑問を、プレアデスにぶつけた」



ゴマ「わざわざネズミの理想郷とやらなんかに行かなくても、普通に地上に移住するだけでいいんじゃねえのか? 資源さえ解決すりゃあ済む問題だろ? 地上でボクらと同じように暮らせばいいじゃねえか。そもそもネズミなんか一緒に暮らせるどころか、本能で食っちまうだろ」



N「何で奴らは〝ネズミの理想郷〟にこだわるんだろうか。ボクはずっとそれが引っかかっていた。プレアデスは大きくため息をついて、ボクの疑問に答えた」



プレアデス「僕たちニャンバリアンの祖先は、元々地上から来たんだけど、ここまで文明を築いた以上、今さら普通のネコの生活には戻る事なんて出来ない。地上には〝野蛮な〟ニンゲンの文明が既に存在している。新たな文明を築く事も難しいだろう」


ゴマ「そうか? ニンゲンに甘えて暮らすのも、悪かねえぜ。な、ルナ」


ルナ「うん。ニンゲンのお世話になってるネコさん、たくさんいるよ」



N「プレアデスは、首を横に振る」



プレアデス「それは、ネコ族の退化だ。ニンゲンに飼い慣らされるなど、今更そんな原始的で未成熟な生活になど戻れない」


ゴマ「何だと? ボクらは未熟なネコだというのか! このやろ……!」


ルナ「ダメ、兄ちゃん!」


プレアデス「例の研究者が言うには、世界に現存する平和な文明社会は、彼が発見した〝知性を持ったネズミの住む世界〟ただ1つだけ、なんだって。我々ニャンバリアンも、今後はそこに移住するんだ」


ゴマ「でも、そのサイズだと一緒に住めねえだろ」


プレアデス「大丈夫! 研究者の最新技術をもってすれば、僕らニャンバリアンは、ネズミと同じ大きさになる事が出来るんだ。ちなみに、ニャンバリアンはネズミは食べないから、心配しないで」



N「ネコとネズミが一緒になって暮らすだと? バカいえ、そんな事が出来る訳ねえだろ。ホントにコイツの言う事を信用していいのだろうか」



ゴマ「……何だか色々と胡散うさんくせえな。で、ボクらは何したらいいんだ?」


プレアデス「最新技術で君たちと僕はネズミと同じサイズになってから、ネズミの住む世界に潜入するんだ。そして君たちには、ニャイフォンに付いているビデオカメラ機能で、ネズミ族がどんな暮らしをしているかを、撮影してきてもらいたいんだ。あ、君たちは普通のネコだから、間違ってネズミを襲って食べちゃダメだよ」


ゴマ「それを無事にこなせたら、帰ってもいいのか?」


プレアデス「撮影した映像データを僕に送信してもらったら、家に帰っていいからね。僕らもニャンバラに帰るから」



N「ようやくこれでひと通り、説明は終わったようだ。要は、地上のどっかにネズミどもの住む平和な世界があって、もうその場所は見つかってるんだという。そして地底に住めなくなりつつあるニャンバラの奴らがそこに移住するために、まずはネズミの世界とやらがどんな所か見て来るのを手伝えと。そういう事だ」

 


ルナ「……それでいいかなあ、兄ちゃん」


ゴマ「ああ、仕方ねえが、やるしかねえようだ。だが、もしそのネズミ族が住む理想郷とやらがどこにも無かったら、その時点でボクらは帰らせてもらうからな」


プレアデス「ありがとう! よろしく頼んだよ、ゴマくん、ルナくん!」



N「闇の中、天井から滴り落ちる水滴の音が地下室に響き続ける。こんなおかしな世界から、さっさとおさらばしちまいたい」



プレアデス「ネズミ族の世界には、何重も結界が張られてるんだ。でも、研究者が開発したトンネル状の機器を結界にくっつけて、中をくぐれば……」


ゴマ「あーうるせえうるせえ。難しい事はそこに着いてから説明しろ。……しゃあねえ、ルナ、やるぞ」


ルナ「うん! 頑張ってみるよ」


プレアデス「じゃあ、支度が終わったら一眠りして、出発しよう!」



N「プレアデスはそう言って袋から出した魚を頭から丸かじりした後、すぐに丸くなって眠りこけてしまった。……ふん。誰がこんな面倒臭え仕事するかってんだ」



ゴマ「おい、ルナ」


ルナ「なに?」


ゴマ「地上に着いたら、プレアデスが見てない隙に、1、2の3で逃げるぞ」



N「ハッキリ言って、ネズミの国なんざもニャンバラの危機なんざも、ボクにとっちゃどうでもいい。ボクらがただ元の世界に帰れさえすりゃいいんだ」



ルナ「ダメだよ兄ちゃん。頼まれたお仕事はちゃんとしなきゃ」


ゴマ「馬鹿野郎。これ以上奴らと関わるってのか? あんだけ泣いてたのは誰だよ、このお人好しが」


ルナ「でも……」


ゴマ「黙ってボクの言う通りにしろ。こんなおかしな世界とは、さっさとおさらばだぜ。さ、寝るぞ」



N「少しだけ見えた希望にすがりながら、じめじめした地下室の中で、ボクらは眠りについた」

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